平成27年5月に施行された「空き家対策特別借地法」を皆さんご存知でしょうか。
今まで、土地にかかる固定資産税は建物が建っている場合、本来の1/6に軽減されていました。しかし空き家対策特別借地法によって、危険性があるとみなされた空き家はこの減税が無くなる事になります。
さらに、危険性と判断された空き家は市から所有者に修繕や撤去の勧告が来ます。それを無視した場合、行政代執行で撤去を行い所有者に費用を請求する形になります。
この法律が制定されたのは、老朽化した建物を放置する事で起こる事件や事故を防ぎ市民の安全を守る事が目的です。
しかし、これからも空き家は増えていくと予想されています。近年でも、人口が減っているのに比べ住宅は増え続けているのです。
2015年時点で空き家数は820万戸あり、全体の13.5%です。
2033年には2015万戸にまで増え、30.2%を空き家が占めると予想されています。
そんな空き家問題が加速する中、国土交通省が空き家を自由に改装・修繕して暮らせる「DIY型賃貸」を推進し、注目を集めています。
DIY型賃貸とは
国が空き家を有効に使える方法として推進する「DIY型賃貸」。DIYと聞いてもピンと来ない方もいる事でしょう。一体、どのような制度なのでしょうか。
そもそもDIYって何?
近年よく耳にする「DIY」という単語。「DIY女子」や「DIYキッチン」といったワードに、「DIYアイデアのまとめサイト」までも存在しています。
それほど有名だからなんとなく意味はわかる、という人も多いですよね。
DIYとは、「Do it yourself」の略で「自分自身の力でやりなさい!」という意味です。
建築業者などの専門業者に依頼せず自分でアイデアを出し、自分で材料を揃え、自分で作業を行い、全て自力で住まいの修理修繕を行い快適な家を作り上げる事を指します。
例えば壁紙を張り替えたり、床や壁紙を塗装したり収納棚を作ったり、小さな修繕から大規模な改造まで幅広いDIY。日曜大工とも呼ばれます。
国が推進するDIY型賃貸の形
今年の4月、国土交通省が「DIY型賃貸に関する契約書式例」を公表しました。
普通、賃貸契約形態は貸主が費用を負担し、リフォーム等の修繕工事を行います。
借主が賃貸物件に手を加える事は禁止されている場合がほとんどで、もし許可が出たとしても退去の際には元の状態に戻さなければいけない「原状回復」の義務があります。
せっかく時間や費用をかけて自分好みにデザインしても、退去時には原状回復をしなければいけません。
しかし、DIY型賃貸借契約は借主が自らの負担で借りた物件を自由に改装できます。
DIYを行った箇所の原状回復の義務もなしとなり、いくら手を加えて大幅に改装したとしてもそのままの状態で退去できます。
このような契約形態により空き家の有効活用を促進する事が「DIY型賃貸」の狙いです。
貸主がリフォームを行わない事で家賃を相場より低く設定する事ができ、借主が浮いた分の費用でDIYによる改装を行うという仕組みです。
岐阜県各務原市では更に、市内の大学や設計会社、そして9つの金融機関と協定を結び、DIY型賃貸を支援する「DIY型空き家リノベーション事業」を推進する動きを見せました。
この事業は、市が貸主と借主のマッチングや資金融資やDIYデザインの提案などの支援を積極的に行うというもので、
設計会社がセミナーやウェブサイト上でDIY制度をPRし、マッチングや集客を行います。
また、建物の改装修繕などDIY作業はもちろん、賃貸借契約締結までをサポート。締結した大学も住居学科の生徒がデザインを提案するなどして協力します。
金融機関は借主が負担する改装費用に対し、金利優遇などの支援を行います。
こういった取り組みは全国で各務原市が初で、大きく注目を集めています。
メリットデメリット
DIY型賃貸は、もの作りが好きな人にはとても魅力的な契約形態に聞こえるのではないでしょうか。
逆に、日曜大工などの作業が苦手な人には難しく感じる事でしょう。
そんなDIY、貸主・借主双方にどんなメリットとデメリットがあるのでしょうか。
メリット
・修繕を行わず現状のまま貸す事ができて費用や手間がかからない
・借主が自費でDIYを行う事で長期入居が期待できる
・退去時には貸出時よりも設備等や内装の価値が上がっている可能性がある
借主のメリット
・持ち家感覚で自分好みに改装できる
・専門業者に頼むより低コスト
・家賃が相場より安い
・退去時に原状回復を行う必要が無い
貸主、借主ともに費用が抑えられるという点が一番の魅力でしょうか。
貸主側のメリットとして、借主が自費で改装する事によって物件に愛着が湧き、長期入居してくれる可能性が高まります。
さらに退去時には貸出時よりも設備や内装がグレードアップされていて、価値が上がっている見込みもあります。
借主も、DIYにかかる費用は材料費のみなので専門の業者に頼むよりも大幅なコストダウンが望めます。今はホームセンターで上等な資材、道具が安価で揃えられます。
事前リフォームを行わないため、家賃も低く設定されており費用をDIYに回すことができます。
退去時に元の状態に戻さなければいけない原状回復義務も無いものとされていて、まるで持ち家のような感覚で自分好みに改装、修繕できます。センスを発揮して自分だけの家を作り出すことが魅力です。
そしてDIYを行った人が必ず言うのが「達成感がある」という点です。
本来プロに頼むべき事を自分の力でやり遂げた事、自分の思い描いたデザインを実現できた事に対して大きな達成感を得る事が出来るのです。
また、お子さんがいる家庭は一から物を作り上げる事でお子さんへの教育にもなりますし、お子さんにとっても貴重な経験になる事でしょう。
デメリット
・家賃を低めに設定しなければいけない
・奇抜なデザインや大きな失敗を残したまま退去されてしまう恐れがある
借主のデメリット
・失敗するリスクがある
・時間がかかる
・怪我の危険性
貸主としては住人入居前の改装工事を行わなくて済みますが、その分家賃を下げなくてはいけません。
また入居者がdiyにより奇抜なデザインへの改装を行ったり、大きな失敗を残してしまったら次の買い手が見つかりずらくなってしまうという危険性も抱えてしまいます。
本来、専門家に任せる作業を自分でやるという事は、当然ながら失敗するリスクが付いてきます。中には業者でさえ、改装が難しく失敗する物件も存在します。
業者に依頼していた場合は万が一失敗しても補償が付きますが、DIYとなると失敗しても何の補償もありません。
何とか自分で修復するか、最終的に業者に頼むことになります。
また、転落や工具によっての怪我の危険性もあります。
高い所へ登っての慣れない作業や、カッターやのこぎりなどの刃物、金槌や電動工具などの普段使い慣れていない機械を操作する事になります。慣れない動作や疲労、集中力の乱れから怪我をする可能性が非常に大きくなります。
時間面でも、業者に任せるのとDIYでは大きく異なります。
業者に任せれば家が改装されてる間も自分は時間を自由に使う事ができますし、集中的にある程度の人数で作業するため時間も短く済みます。
DIYとなると自分自身や家族で、仕事や家事の合間を縫って行うため、長期戦になる覚悟が必要になります。当然自分の時間も減ってしまいます。
DIYを行う場合は、事前に細かく具体的な計画を立てておかないと後々大変な事になってしまう場合が多いです。
メリットデメリットをざっと見てみるとリスクが大きく感じますよね。初心者が手を出しちゃいけないんじゃ…と不安に感じる方も多いかと思います。
しかし、DIYや日曜大工が趣味という人も当たり前ですが最初は初心者だったのです。
DIYではメリットだけでなく、デメリットやリスクを把握して作業に臨む事が大切です。
危険性を理解して失敗を避ければ、メリットを最大限に生かしたDIYを行う事が出来ます。
DIYで失敗しないためには
魅力的なメリットも多いDIYですが、常に危険や失敗とも隣り合わせです。
事前に失敗例を見ることでありがちな失敗、思わぬ落とし穴を理解し、失敗を回避しましょう。
やってしまいがちな失敗
・扉が開閉しない
せっかく扉を設置したのにドアノブが動かない、ドアが開かないなんて事も少なくはありません。
測量をしっかり行い、作業の合間合間に開閉を確認しながら進めましょう。
・壁を塗っていて色むらが酷くて見栄えが悪い
ペンキ等の塗料をムラなく綺麗に塗る事は、実は結構難しいです。
色ムラが酷くて見栄えが悪い!なんて事も…。
塗料は素材によって向き不向きがあるから事前に調べてから買いに行きましょう。
ハケは塗の厚みが変わりやすくムラになりやすい為、ローラーの方が綺麗に塗れます。
ペンキは1度塗るだけでなく、2度も3度も重ね塗りすることでムラが目立たなくなり綺麗に塗れます。
一回塗って失敗した!と思っても何度か塗り重ねて様子を見てみましょう。
・ペンキが垂れてしまう
壁や天井を塗装していたら、ペンキが垂れて床が汚れてしまった例も。
木材にペンキを塗って新聞紙の上で乾かしていたら、垂れたペンキのせいで木材と新聞紙がくっついてしまった!という失敗もありがちです。
・塗装中、逃げ場が無くなってしまう
床や屋根を塗り終わり、抜け道を確保するの忘れて乾くまで動けなくなってしまうと数時間身動きが取れなくなってしまいます。
終わった時の事を考えて塗り始めましょう。
・まっすぐに、直角に板を切れない
のこぎりで木材をまっすぐ切るのはとても難しいです。
まっすぐ切ったつもりでも、棚などは組み立て時に歪みが現れて組み立てられなかったりします。
何度慎重に測量し、丁寧に切断してもまっすぐにならない!という人はホームセンターでカットしてもらうことをお勧めします。
希望の長さに切ってもらえますし、安く済みます。
直角に切ることはさらに難易度が上がります。
直角カットはさしがねという、プロの業者も使っている直角状の定規を使うと正確な直角がとれやすくなります。
・釘を打ったら板が割れる、釘が曲がる
あらかじめ釘を打ちたい部分にキリなどで下穴を開けておくと、釘の曲がったり板が割れたりせずに打ち込めます。
釘を打つのもスムーズになり、怪我をしにくくなります。
・怪我
金槌で釘を打っていて手も一緒に…のこぎりで板を切っていて指も一緒に…一番身近な怪我です。
集中力が切れた頃、慣れてきて油断した時にやりがちなミスです。
釘を打つときは金槌の重さを利用し、あまり力を入れずに振り下ろしましょう。
のこぎりを使う時も、切れにくいからといって無理に力を入れずに慎重に動かしましょう。
・接着剤の被害
瞬間接着剤は名の通り瞬間的に接着できる便利アイテムですが、その分指がくっついてしまったり、くっつけるつもりのなかったものまでくっついたりというトラブルを招きます。
下に敷いておいた新聞紙が材料にくっついてしまう事もありますので、接着剤を使うときはゆとりのあるスペースで綺麗整頓してから使用しましょう。
・ペットやお子様に注意
足にペンキをつけたペットがそこら中歩いて肉球柄まみれに!なんて失敗はありがちですが、最も気をつけたいのは塗料や接着剤といった有害な物質を口に入れてしまう事です。
放し飼いの場合は特に、作業場に近づかせないように対策しましょう。
赤ちゃんなどの小さなお子様の行動にも注意しましょう。
ポイント
はじめから大規模な修正に挑んで大失敗、という失敗談は少なくはありません。
水まわりや電気系の変更、扉の作成や外壁の塗装など専門的な技術や知識、プロが使うような道具を必要とするDIYに早々に挑戦するのは避けましょう。
勝手がわからない状態で「なんとなく」で始めると、取り返しのつかない失敗へ繋がります。怪我をする危険性も高まります。
結局業者に頼んで直す事になり、こんな事なら最初から業者に頼んだ方が安く済んだのに…なんて事態は避けたいですよね。
最初は小さいものから、慣れてきたら徐々に規模を大きくしていきましょう。
プロに任せるべき所はプロに任せる、と割り切ることも重要です。自分でやるよりも、プロに頼んだほうが安く済む場合もあるので難しい箇所は業者に相談しましょう。
DIYで成功する秘訣は、高望みしない事です。
理想が高過ぎると、実際やってみた後に思い描いていたものと現実とのギャップにがっかりしてしまいます。
「こんなものかな」くらいの気持ちで、自分で作り上げた家に愛着を持つことが大切です。
まとめ
使い道の無い空き家を活用できる事業として、とてもな注目を集めているDIY型賃貸。
空き家を持て余している家主にとっても、安価で住まいを手にして自己流に改装したいという人にとってもありがたい制度です。
DIYを行うには長期戦になる覚悟が必要ですし、集中力や体力も消耗します。危険や失敗も付き物です。
しかしその分自分の構想、センスを思いっきり発揮する事ができます。他にない達成感も得る事ができます。
DIYは、楽しむ事が大切です。
無理に難しいものに挑戦してDIYを嫌いになってしまったらもったいないですよね。
無理のない範囲で、リスクや失敗例を十分に把握して行い、空き家を有効的に活用していきましょう。
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