解体工事は頻繁に行うものではないため、周囲に工事の経験者がいないケースも珍しくありません。
だからといって、正しい情報を得られないまま解体業者を決めてしまうと、工事開始後にずさんな工事や高額の追加費用といったトラブルに悩まされる危険があります。
そのため、解体工事の品質管理ポイントを知り、解体業者の良し悪しを見分けられるようにしておくと安心です。
そこで、今回は解体工事における品質管理ポイントについて、工事品質・法令順守・適正価格の3つの視点から紹介します。
【視点その1】工事の進行に沿って確認! 工事品質の良否を見極めよう
解体業者を選ぶ際は、施工する業者の技術とマナーをチェックします。解体工事は単に壊せば良いといったものではなく、振動や騒音、ホコリなどへの対策が欠かせません。
対策が不十分だと、ご近所と大きなトラブルに発展する危険があります。ご近所に配慮しながら、依頼者の要望した施工を実現できるのが優良な解体業者さんです。そこで、解体工事における品質管理ポイントとして、まずは工事品質について解説します。
《解体工事前》事前準備で大事なのは明確な工事計画と近隣への周知
解体工事を開始する前に重要なのは、実現可能な工事計画とご近所への挨拶回りなどです。
施工スケジュール・施工時間帯は明確になっているか?
解体工事の進捗が遅れると、後に控える建て替え工事や土地の売却手続きといった予定が狂う危険があります。
そのため、明確で無理のない施工スケジュールになっているかが重要です。
※工程表の実物。着工日から完了日まで、各作業内容が計画的に組まれている。
なお、一般的な木造2階建て住宅の場合、大体10日から14日程度で解体工事が完了します。
また、撤去工事では振動や騒音、家屋を崩すときに舞うホコリが原因で、ご近所からクレームが起きかねません。
そこで、クレームを回避するために、ご近所さんにも施工スケジュールと施工時間帯を前もって知らせておく必要があります。
施工時間帯に合わせて洗濯物や外出を調整していただければ、大きなトラブルを回避できる可能性が高いからです。
よって、良質な解体工事には明確な施工スケジュールと施工時間帯が不可欠です。
近隣挨拶はしてもらえるか?
施工スケジュールと施工時間帯は、解体業者さんに工事前の近隣挨拶の際に伝えてもらうのが一般的です。
良質な解体工事を心がける業者さんなら、事前の挨拶回りは欠かしません。さらに、業者さんによって、挨拶回りで伺うお家の数にも差があります。
挨拶回りに力を入れている業者さんだと、一件の解体工事につき20~30件ほど回ります。なお、近隣挨拶については以下の記事で詳細に説明しています。よろしければご確認ください。
害虫・害獣対策の相談に乗ってもらえるか?
もう一つ、工事を始める前に大事なのが害虫・害獣対策です。空き家や古い家屋の内部には、シロアリやダニ、ゴキブリといった害虫、ネズミやハクビシンといった害獣が潜んでいる可能性があります。
害虫・害獣は単に気持ち悪いだけでなく、建物に損傷や腐朽、糞尿による悪臭を生じさせかねません。
もし、事前に対策をせずに工事を始めてしまうと、建物内部に潜んでいた害虫・害獣が隣家に散らばってしまい、大きなクレームに発展する可能性があります。
ですから、害虫・害獣については、あらかじめ拡散防止または駆除といった対策が必要です。
害虫・害獣対策を自社で行う解体業者は多くありませんが、優良な業者さんならアドバイスや害虫・害獣駆除の専門業者を紹介等していただける可能性があります。
なお、害虫・害獣対策については以下の記事でまとめています。ぜひ、参考にしてください。
《解体工事中》施工中は常に近隣への配慮が必要
解体工事では、騒音、振動、ホコリなどトラブルになりかねない要因が数多くあります。そのため、解体工事中は品質管理が特に問われます。
作業員のマナーに問題はないか?
近隣の方々は、工事している様子を常に見ています。そのため、作業員さんの格好や行動は、大事なチェックポイントです。具体的には、以下の点を確認してみてください。
- 挨拶を徹底している
- 服装に統一感があり身だしなみも整っている
- 安全対策としてヘルメットを着用している
- 喫煙マナーを守っている
特に、喫煙に関しては、現場に吸い殻をポイ捨てしていないか注意が必要です。
養生シートは問題なく設置されているか?
解体工事中は大量のホコリや激しい騒音と振動が発生します。そのため、養生シートの設置が欠かせません。
建物の解体工事において、建物の周囲をカバーするシートのことです。破片落下による事故防止のほか、ホコリの飛散防止や防音にも効果があり、解体工事によるご近所のストレスを軽減します。
また、工事現場に隣接する家屋を傷付けないようにする目的もあります。なお、内装解体の際に、作業箇所周辺の内壁や床、資材等を守る目的で使用されるシートも養生シートと呼ばれます。
しかし、中途半端な状態で建物を覆っていても、養生シートの効果は十分に発揮されません。
具体的には、破れていない養生シートを使用し、建物の高さまで覆っているかどうかが工事品質の判断ポイントです。
なお、養生シートについては以下の記事で詳細に解説しています。参考にしてみてください。
散水でホコリが舞わないようにしているか?
築年数が経った家屋の屋根裏や梁には、驚くほど大量のホコリが蓄積している場合があります。養生シートだけでは、近隣にホコリが飛散するのを防ぎきれません。
そこで、養生シートとともに適切な散水が重要です。水分にはホコリを吸着させてひとまとめにし、重量を増す効果があります。
ですから、重機を使って家屋を取り壊す際は、建材を十分に湿らせているかをチェックしてください。
一日の最後に清掃を行っているか?
一日の工事が終わると、解体現場の周辺は土や小さなゴミで汚くなりがちです。現場周辺を汚れたままにしておくと、ご近所からクレームが入るおそれがあります。
また、トラックによる搬出や人の出入りによって、解体現場の前面道路に危険な破片が散乱している場合もあります。
そのため、一日の終わりに必ず清掃を行っているかどうかも、大事な品質管理ポイントです。
《解体工事後》希望通りに工事が完了できるかチェック
解体工事が終わったら、工事が要望通りに行われたかどうかの確認が必要です。仕上げの良し悪しは次の予定に影響を与えるため、解体業者の力量が問われます。
新築建て替えや売却できるように整地がされているか?
工事品質の決め手になるのが整地です。
解体跡地からゴミや大きな破片(ガラ)をすべて取り除き、平らにする作業のことです。解体工事の総仕上げに当たります。
もし、整地に問題があると新築建て替え工事が始められず、やり直しによって工期の遅れや追加費用が発生するおそれがあります。
また、土地を売却する場合も、売却価格に影響します。よって、解体跡地は大きな石やゴミがすべて取り除かれ、キレイに整地されていなければなりません。
最低でもこぶし大の大きさの石やコンクリートの破片が残っていない、良質な整地になっているかチェックしましょう。
工事が要望通りに完了しているか?
解体工事が完了したら、工事が要望通りに行われたかを確認します。なぜなら、事前に伝えた通りに工事が行われない可能性があるからです。
例えば、以下のようなケースが挙げられます。
- 隣家が所有するブロック塀を壊されてしまった
- 残すはずの樹木を伐採されてしまった
- 取り外して保存してもらうはずの欄間を処分されてしまった
優良な業者さんは、工事範囲に関するトラブルを防止するために解体範囲図などを作成します。
※解体範囲図の実例。工事の物件や隣家の配置などが分かるようになっている。
よって、解体範囲図の提示などによって、慎重に工事範囲を確認しているかどうかについてもチェックが必要です。
【視点その2】知らないでは済まされない……法令を守っているかを確認しよう
解体工事における品質管理の指標は、実際に行われる工事だけにとどまりません。法令や基本的なルールを守っているかどうかに関しても、大変重要なチェックポイントです。
解体工事は事故や不正といったトラブルが起きやすいため、様々な法律が作られました。ですが、いまだに法律を守らない解体業者が存在します。
しかも、違法業者に依頼した人も罰せられる可能性があるため要注意です。そこで、解体工事に伴う法律の種類と、法律によって課せられる義務を併せて紹介します。
必要な届出・申請をしているか?
解体工事では、様々な届出や申請が義務付けられています。なかでも、解体業者が行う主要な届出・申請は以下の4点です。
根拠となる法律 | 義務を課す目的 | |
---|---|---|
建築物除却届 | 行政への通知、情報提供のため | |
特定粉じん(アスベスト)排出等作業実施の届出 | 有害物質の適正処理チェックのため | |
建設リサイクル法の届出 | 分別解体・廃棄物の適正処理チェックのため | |
道路使用許可申請 | 道路を工事で使用するため |
上記4点の届出・手続きを行ってもらえるかを確認しましょう。
なお、上表の届出・申請は提出を怠るとペナルティーがあります。内容を詳しく知りたい方は、以下の記事をぜひご覧ください。
実は、特定粉じん排出等作業実施の届出と建設リサイクル法の届出の2点は、本来は工事依頼者に届出義務が課せられています。
ただし、工事依頼者が自力で手続きするのは難しいため、解体業者さんに代行してもらうのが一般的です。
分別解体・廃棄物の適正処理を守っているか?
上表で紹介した建設リサイクル法の届出は、解体工事で出る廃材のリサイクルを義務付ける法律が基になっています。(建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律)
解体工事の品質管理上、特に重要なポイントです。
解体工事などでは排出されるゴミのリサイクルを推進し、再利用されない資源の量を減らす目的で作られた法律です。
昔の解体工事では、分別しないでまとめて壊すミンチ解体が主流でした。
ただ、世界的に資源の再利用化が求められるようになったため、現在はゴミを種類ごとにまとめながら解体を進める分別解体が義務付けられています。
よって、分別解体は必須なのです。守っていない場合は、法律違反で処罰の対象となります。
標識を掲示する義務に従っているか?
解体工事の現場においては、標識の掲示が義務付けられています。(建設業法 第40条)
解体現場の見やすい箇所に掲げる許可票のことです。許可票には、会社名・代表者の氏名や登録番号などを明記します。
解体工事を行うためには、解体工事業の登録や一定の建設業の許可が必要です。
解体現場に標識の掲示があれば、行政から免許・許可を受けている業者と分かります。
【視点その3】極端に安い見積書には訳がある? 見積金額が適正価格かチェックしよう
適正な見積金額を提示しているかどうかも、解体工事において大切な品質管理ポイントです。
一般的には解体業者を選定するために見積書の比較を行いますが、見積金額が安すぎる場合は要注意です。
なぜなら、これまで紹介してきた通り、高い工事品質を保ち法令・ルールに則って解体工事をするなら、ある程度のコストがかかるのは必然だからです。
そこで、解体業者さんに見積りを出してもらう際に気を付けるべき点を解説します。
現地調査をしてもらえるか?
正確な見積書を作成してもらうには、解体業者さんによる現地調査が欠かせません。
解体業者が直接現地に赴き、解体物件の内部や建物周辺の状況を確認することです。
見積金額と実際の解体費用の差を小さく抑えるのに不可欠です。
解体工事は、重機の使用可否、道路の状況、建物の素材や工法、見積りした解体業者の得手不得手等、様々な要因で見積金額が大きく変わります。
ですから、坪単価を使用した見積りはほとんどあてになりません。
もし、電話だけで見積金額を提示するような業者なら、依頼しない方が良いでしょう。
見積金額については、解体業者さんの経営努力によって安くなっているケースがあります。
もし、複数社の見積書のうち1社だけ極端に安い場合は、安くできる明確な理由を解体業者さんに聞いてみましょう。
見積書の明細は詳細に記載されているか?
また、現地調査を経て見積りをしてもらったとしても、見積書の明細があいまいな場合は要注意です。
見積書の明細に「一括」「一式」といった文字が多い場合は、現地調査を行っていない場合と同様に見積金額と解体費用の間に差が生じる危険があります。
そこで、望ましい見積書の実例を見てみましょう。
※単価が分かるものは「数量×単価」で金額を算出している。
すべてが「数量×単価」で算出できるわけではありませんが、できるだけ細かく計算しているのが分かります。
このように、「◯◯一式」より「数量×単価」で計算している方が、後々追加費用が発生する可能性が低くなります。
見積書を取得した場合は、明細を漏れなく確認しましょう。
追加工事への対応は適切か?
解体工事では、地中埋設物など見積り時点では分からないモノもあります。
解体現場の地中に埋まっているゴミや古井戸、配管、浄化槽などのことです。
見積り時点では地中埋設物の有無は分からないので、発見された場合は撤去費用が追加で発生します。
優良な解体業者さんなら、地中埋設物が発見された時点で工事を進めるか確認の連絡がもらえます。工事完了後、一方的に費用を請求されるケースはありません。
なお、地中埋設物については、下記の記事で詳細に解説しています。ぜひ、参考にしてみてください。
賠償保険に加入しているか?
一般的に解体業者さんは、万が一ご近所さんとトラブルが起きた場合に備えて賠償保険に加入しています。
隣家を傷付けてしまったなど、損害賠償の支払いが発生した場合に下りる保険です。
年間で加入するタイプと解体工事ごとに加入するタイプがあります。
解体工事は細心の注意を払っていても、トラブルの発生をゼロにはできません。そのため、優良な解体業者さんなら必ず賠償保険に加入してリスクに備えます。
リスク対策ができているかどうかに関しても、品質管理としては大事な視点です。
まとめ
解体工事においては、工事品質に法令順守、適正価格を加えた3つの視点で品質管理するのが大事です。
ところが、業者さんの情報は真偽の分からないネットで取得するしかないケースがほとんどです。
もし、実際の解体現場をチェックしようと思っても、多大な労力を要するのであまり現実的ではありません。
そのため、当あんしん解体業者認定協会ではお客様に代わって解体工事の品質管理を行っています。
今回ご紹介したチェックポイントは、当協会の解体業者13の登録審査基準にまとめられています。
実際に解体現場をチェックしたり、お客様アンケートを取ったりして、優良と判断した解体業者さんだけに当協会の登録業者さんとなっていただいています。ですので、解体業者選びの際はぜひ当協会にご連絡ください。
一般的に解体業界に馴染みがある方は多くありません。ただし、解体工事についてすべてを知る必要はなく、ポイントだけ押さえておけば問題ありません。
解体工事を無事に終わらせて、新築、建て替え工事や土地の売却を進めましょう!