解体工事に関する手続きについて調べてみると、実に様々な届出が登場します。
馴染みのない名前の届出が並んでいると、「これ、全部自分でやるの!?」と心配になってしまうのも無理はありません。
ですが、実は自分自身で行うべき届出は、たった1種類しかありません。
そこで、今回は解体工事に必要な5種類の届出を紹介したうえで、実際にご自身で行うべき届出について説明します。
解体工事に必要な5種類の届出を知っておこう
解体工事の際に提出しなければならない届出の種類は、対象の家屋の大きさや建築材料等によって異なります。
ただ、ほとんどの解体工事で必要となる届出は5種類に絞られます。
なので、まずは代表的な5種類の届出について確認してみましょう。
届出と申請は厳密には意味が異なりますが、行政等に対して書類を提出する手続きである点は同じです。
そのため、本記事では2つをまとめて届出と表記する場合があります。
建築物除却届
建築物除却届は、解体工事に着手する前に提出します。
解体工事は事故や不法投棄などが発生しやすいので、行政がチェックしておく必要があります。
そのため、解体工事を始める前に行政へ届け出るよう義務付けています。
また、解体工事の情報はまちづくりに利用される場合があります。
特に、届出の内容は建築物除却統計調査に反映されます。
建築物除却統計調査は建築や住宅に関する基礎資料の1つで、国の政策決定などに影響を与えていると考えられます。
建築物除却届の概要は、以下の通りです。
届出が必要なケース | 解体工事の行う床面積の合計が10㎡超の場合 |
---|---|
根拠となる法律 | 建築基準法 第15条第1項 |
届出義務者 | 解体事業者 |
届出先 | 民間指定確認検査機関または各自治体(建築主事経由、都道府県知事宛) |
届出期限 | 着工まで(アスベスト除去作業が伴う場合は、事前調査や別の届出も必要) |
怠った場合の罰則 | 50万円以下の罰金(建築基準法 第103条) |
解体工事に関する情報も建築工事届に記入します。
特定粉じん(アスベスト)排出等作業実施の届出
解体工事ではアスベストが飛散しないようにしなければなりません。
長年、断熱材や保温材等として建築工事に使用されていました。
しかし、飛散したアスベストを体内に吸い込むと肺がんを起こす可能性があることが判明したため、現在は原則として製造や使用が禁止されています。
工事現場にアスベストが使用されているかを事前調査し、使用が確認された場合は施工前に必要な処置を施します。
ちなみに、事前調査の結果は特定粉じん排出等作業実施届出書、アスベスト工事の計画書に落とし込まれます。
アスベストの脅威から作業者を守る目的で作成されるため、人命に関わる重要な書類といえます。
アスベストの届出の概要は、以下の通りです。
届出が必要なケース | アスベストが飛散するおそれのある解体工事に該当する場合 |
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根拠となる法律 | 大気汚染防止法施行令 第3条の4第1項、大気汚染防止法 第2条第11項 |
届出義務者 | 解体工事の発注者 |
届出先 | 各自治体 |
届出期限 | 着工の14日前まで(大気汚染防止法 第18条の15) |
怠った場合の罰則 | 3ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金(大気汚染防止法 第34条)、その他条例による |
なお、アスベストの事前調査に関する手続きについては、以下の記事で詳しく触れています。
参考にしてみてください。

建設リサイクル法の届出
解体工事は、建設リサイクル法に基づいて行われます。
正式には、建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律といいます。
特定建設資材と呼ばれるコンクリート・アスファルト・木材等のリサイクルによって、資源の有効活用とゴミの排出量抑制を目指しています。
昔の解体工事では、ゴミを分別せずにまとめて壊すミンチ解体が主流でした。
ただし、現在はゴミを種類別に分けながら解体する分別解体が建設リサイクル法により義務付けられているので、ミンチ解体は法律違反です。(建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律 第9条)
そこで、行政は分別解体を守ってもらうため、建設リサイクル法の届出を義務付けています。
建設リサイクル法の届出により、解体工事における分別解体の手順や各種解体ゴミの排出見込み量などを行政に報告します。
建設リサイクル法の届出の概要は、以下の通りです。
届出が必要なケース | 次の2点を満たす解体工事 1.特定建設資材を使用している建築物等の解体工事 2.解体工事を行う床面積の合計が80㎡以上(2棟以上の場合は合計の床面積) |
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根拠となる法律 | 建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律 |
届出義務者 | 解体工事の発注者 |
届出先 | 各自治体 |
届出期限 | 着工の7日前まで(建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律 第10条) |
怠った場合の罰則 | 20万円以下の罰金(建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律 第51条) |
すでに触れた通り、コンクリート・アスファルト・木材などが特定建設資材にあたります。
特に、木材は大抵の家屋に使用されているので、実質的には床面積の合計が80㎡以上なら建設リサイクル法の届出の対象です。
なお、建設リサイクル法の届出については、以下の記事で詳細に説明しています。
参考にしていただければ幸いです。

道路使用許可申請
重機やトラックなどが工事現場の敷地内に入り切らない等、前面の道路も使用しなければならない場合があります。
ただ、道路が工事車両等で塞がれると往来の妨げになるので、工事に関係しない車や通行人にとっては迷惑ですよね?
道路交通法でも、交通の妨害行為は処罰の対象となるのが原則です。
そのため、あらかじめ道路使用許可を取っておく必要があります。
道路使用許可が下りると、解体工事のために前面の道路を一時的に使用しても問題になりません。
道路使用許可申請の概要は、以下の通りです。
申請が必要なケース | 道路において工事もしくは作業をしようとする行為(1号許可) |
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根拠となる法律 | 道路交通法 第77条 |
申請義務者 | 解体事業者 |
申請先 | 管轄の警察署 |
申請期限 | 十分な時間的余裕をもって事前相談 |
怠った場合の罰則 | 3ヶ月以下の懲役または5万円以下の罰金(道路交通法 第109条) |
なお、解体工事で必要な足場が道路にはみ出してしまう場合、道路の継続使用のための道路占用許可が必要です。
道路使用許可と異なり、道路占用許可は自治体に対して申請しなければならないので注意しましょう。
参考 警視庁道路使用許可の概要、申請手続等 参考 道路使用許可・道路占用許可取得代行センターよくあるご質問建物滅失登記
建物に関する情報は、登記簿に記載されています。
建物に関しては、所在・地番・家屋番号等のほか、権利情報についても記録されています。
解体工事を終えた時点では、登記簿上に建物がまだ存在します。
ですから、建物滅失登記によって建物が無くなった時期などを記録したうえで、登記簿を閉鎖しなければなりません。
もし、登記簿上に存在しないはずの建物があると、新築や土地の売却等に支障をきたします。
そのため、建物滅失登記は欠かせない手続きなのです。
建物滅失登記の概要は、以下の通りです。
申請が必要なケース | 登記済みの建築物を解体撤去した場合 |
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根拠となる法律 | 不動産登記法 第57条 |
申請義務者 | 解体工事の発注者 |
申請先 | 管轄の法務局 |
申請期限 | 建物の解体後1ヶ月以内(不動産登記法 第57条) |
怠った場合の罰則 | 10万円以下の過料※(不動産登記法 第164条) |
※過料(かりょう)とは、行政による罰則の1つです。刑罰ではありません。
なお、解体した家屋が古い場合、もともと建物の登記簿自体が存在しない場合があります。
その場合は、建物滅失登記の代わりに家屋滅失届が必要となります。
家屋滅失届の提出先は管轄する市町村役場です。
法務局ではありませんので注意してください。
大半の届出は代行してもらえる? 自分でやるべきなのは1種類のみ
5種類の届出を知ると、「手続きが大変そうだな…」と思ってしまうかもしれません。
ですが、安心してください。
実は、自分で行う届出は5種類うち建物滅失登記だけだからです。
4種類の届出は代行してもらえる可能性が高い
まずは、すでに紹介した届出をまとめてみましょう。
届出の種類 | 届出義務者 |
---|---|
建築物除却届 | 解体事業者 |
特定粉じん排出等作業実施の届出 | 解体工事の発注者 |
建設リサイクル法の届出 | 解体工事の発注者 |
道路の使用許可申請 | 解体事業者 |
建物滅失登記 | 解体工事の発注者 |
上表のうち、建築物除却届・道路の使用許可申請の2つは届出義務者が解体事業者です。
発注者の手続きが要らないので、表から削除してみましょう。
2つの届出を表から削ると、以下の3種類が残ります。
届出の種類 | 届出義務者 |
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特定粉じん排出等作業実施の届出 | 解体工事の発注者 |
建設リサイクル法の届出 | 解体工事の発注者 |
建物滅失登記 | 解体工事の発注者 |
さらに、残った3つのうち特定粉じん排出等作業実施の届出・建設リサイクル法の届出の2つも、実は発注者自身で行う必要はありません。
本来の届出義務者は発注者ですが、優良な解体業者なら委任状を渡して代行してもらえるケースがほとんどだからです。(手数料がかかる場合は、見積書に官公庁届出として記載されます)
ですから、2つの届出も表から削ってしまいましょう。
すると、以下の1種類のみが残ります。
届出の種類 | 届出義務者 |
---|---|
建物滅失登記 | 解体工事の発注者 |
結果的に、建物滅失登記のみが残りました。
なぜ建物滅失登記は自分でやるべきなのか?
残った建物滅失登記についても、「自分でやるのは面倒…」と思う方は代行をお願いできます。
もし、代行を依頼する場合は土地家屋調査士に依頼します。
解体業者や司法書士であっても、法律上認められていません。(土地家屋調査士法 第68条)
もし、無資格で業務を行った場合は、1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられる場合があります。(土地家屋調査士法 第73条)
ところが、土地家屋調査士に依頼すると大体4~5万円程度かかってしまいます。
幸いなことに、建物滅失登記は自分でも可能で、内容もあまり難しくありません。
そのため、建物滅失登記については、依頼するよりもご自分でチャレンジした方が良いのです。
建物滅失登記の申請方法を知ろう
建物滅失登記に必要な書類は、以下の6点です。
- 建物滅失登記の申請書
- 所有者の印鑑登録証明書
- 建物の位置図
- 建物取毀証明書(建物滅失証明書)
- 業者の印鑑登録証明書
- 業者の資格証明書(代表者事項証明書等)
上記のうち、赤字で示した3点は解体業者から受け取ります。
また、建物滅失登記の申請書を記入するには登記情報が必要です。
登記情報は、法務局から建物の登記事項証明書を取得すれば確認できます。
申請用紙も法務局で手に入りますので、あわせて取得しましょう。
なお、建物滅失登記の申請書などの記入例などについては、以下の記事で紹介しています。
自分で登記する方法を説明しているので、ぜひ参考にしてみてください。
○解体工事で更地にする場合(建物滅失登記のみ紹介)
解体工事後の必須事項!「滅失登記」とは何なのか?
○建て替え工事を行う場合(建物滅失登記に加え、新築に必要な2つの登記も一緒に紹介)
節約しよう!! 解体から新築までの建て替え登記を自分で行う方法
まとめ
今回は、解体工事に必要な5種類の届出について説明しました。
届出・申請のうち建物滅失登記以外の4種類は、優良な解体業者に工事を依頼できれば代行してもらえます。
そのため、自分で行うべきなのは建物滅失登記だけです。
建物滅失登記は、書き方さえ分かれば簡単です。
とはいえ、堅苦しい名前なので、身構えてしまっても無理はありませんよね。
そこで、あんしん解体業者認定協会は、建物滅失登記の簡易マニュアルを作りました。
数年前より、当協会を利用して解体工事を行った、すべてのお客様に漏れなくプレゼントしています。
建物滅失登記の簡易マニュアルを片手に、申請用紙へ記入していただければ幸いです。
なお、当協会に登録されている解体業者さんは、厳しい審査基準をクリアしています。
解体工事に必要な届出の代行だけでなく、解体費用を抑えながら良質な工事を提供できるのが特長です。
当協会では無料で登録業者さんを複数社紹介しているので、ぜひお気軽にご連絡ください。
解体工事では多くの届出を必要とします。
ただ、一つ一つの届出に明確な意味があり、それぞれが欠かせない大事な手続きです。
届出の意味を知っておけば、解体工事をちょっと身近に感じられるかもしれませんね。
※関連記事
3ステップで解決!! 解体工事では建設リサイクル法の届出を出そう
節約しよう!! 解体から新築までの建て替え登記を自分で行う方法