放置したままは許されない!?「空き家対策の推進に関する特別措置法」について

近年、次々に増え続ける空き家と、放置された空き家が引き起こすトラブルが社会的に問題視されています。空き家が引き起こすトラブルには、犯罪の増加、野生動物が害虫の発生、景観の悪化など様々なものがあり、近隣住民の悩みの種となっているのです。

そんな中、空き家解消に向けて施行された「空き家対策の推進に関する特別措置法」(通称空き家特措法)」。この法律が施行されたことにより、放置され続ける空き家はどう変わっていくのでしょう。そして、空き家所有者にはどのような影響があるのでしょうか。

今回は、増え続ける空き家問題と、空き家特措法の内容について詳しくご紹介します。

空き家対策の推進に関する特別措置法とは?

空き家特措法は、今後様々な被害をもたらす可能性のある空き家を特定空き家とし、特定空き家の所有者に対して特定空き家の除却(解体)改修・修繕を促すべく、2015年2月26日(一部では5月26日)に施行されました。

具体的な内容は、簡単に説明するならば、「放置したままの空き家は取り壊すか、修繕して活用しましょう」「そのままにしておくと、行政により強制的に取り壊されますよ」というもの。
市町村はこれにより地域の空き家の現況調査を強化し、「特定空き家」と認められた家屋については、所有者の特定をし、然るべき処置を取るようになりました。

措置の対象となる特定空き家

特定空き家とは、適切な管理が行われていないがために近隣に被害をもたらす可能性のある空き家のことを指し、行政により認定されることで空き家特措法の対象となります。
主に、地域の防災・衛生・景観等に悪影響を及ぼす空き家であったり、近隣住民の生活や生命に危険をもたらしたり、近隣家屋等を破損されるおそれのある空き家が該当します。

空き家対策の推進に関する特別措置法の第2条において、特定空き家は次のように定義されています。

  • そのまま放置していると倒壊など保安上の危険となる可能性のある建物
  • そのまま放置していると衛生上有害となる可能性のある建物
  • 適切な管理がされていないがために景観を損なっている建物
  • 周辺の生活環境を守るために放置してはおけないと判断された建物
  • 一般的に空き家とは、人が住むための家として建てられ、その後放置された建物のことを指しますが、住居以外の用途で建てられた建築物や工作物でも、使用されていない状態のものは空き家に該当します。
    つまり、家屋に限らず上記の定義に該当する建物であれば、この特別措置法の対象となり得るということです。
    ただし、使用されていない建物でも、国や公共の団体が所有・管理しているものであった場合、これには該当しません。

    なぜ空き家特措法は施行されたのか?

    「空き家対策の推進に関する特別措置法」が制定された背景には、近年空き家の増加に伴い様々なトラブルが発生するようになったという、社会的な問題がありました。

    同じ築年数の建物でも、管理されているものとそうでないものとでは、老朽していくスピードがまるで違います。人の手が触れることなく放置された家はどんどん朽ちていき、様々なトラブルを引き起こすのです。
    例えば、もろくなった建材の一部が破損・倒壊すれば、近隣住民の生活や生命に危険を及ぼしてしまいますし、そうでなくとも、老朽化した家屋は害虫・害獣の発生を誘発し、地域に衛生上の被害を与えます。また、人の目の行き届かない建物は犯罪の温床となり、空き巣や放火の増加など、治安の悪化にもつながります。

    そのほかにも、空き家によって発生したトラブルはたくさんあります。
    詳しくは、こちらでもご紹介しています。

    なぜ空き家は増え続けるのか?

    総務省統計局の調査によれば、平成25年時点で日本全国の空き家率(総住宅数に占める空き家の割合)は13.5%とされています。
    つまり、住宅7軒のうち、1軒は空き家に当るというのです。

    なお、今後も全国の空き家率は上昇していくと見られています。

    (中略)既存住宅の除却や、住宅用途以外への有効活用が進まなければ、2033年の総住宅数は約7,130万戸へと増大し、空き家数は約2,170万戸、空き家率は30.4%へと、いずれも上昇するとしている。

    また、同社が2000~2015年の各年における住宅購入者(日本全国の25~59歳の男女9,204名)を対象に行ったアンケート調査によると、既存住宅を購入した世帯の比率は、2005年の18%から2015年には29%に増加。この傾向が2016年以降も継続すると仮定すると、既存住宅流通量は2025年に31万戸、2030年に34万戸へ増加すると見込んでいる。

    引用:SUUMOジャーナル

    では、なぜ空き家はここまで増加してしまったのでしょうか。

    社会の高齢化による影響

    家族で暮らしていた家屋から子どもたちが巣立っていき、残った親世代が高齢となったとき、老人ホームや介護施設を利用するようになると、その家屋は誰も済まない空き家となってしまいます。
    子どもたちが遠方に住んでいたり、自分の家庭のことで忙しくなると、空き家を管理するのが難しくなってしまいます。かといって長く住んできた家屋を取り壊すことにも踏み出せず、結果、その家屋は「特定空き家」となってしまうことが多いのです。

    今後、社会の高齢化はますます進むと見られていますから、このような理由から全国の空き家率も上昇していくと予想されています。

    世帯数の減少による影響

    総務省統計局の調査によれば、平成29年4月の段階で日本の人口は1億2679万人であり、前年同月に比べ0.15%減少しています。この先も日本全国の人口は減少していくと見られ、それに伴って世帯数も減っていくと考えられます。
    世帯数が減少すれば人の住む家屋も減っていきますが、金銭面やかかる労力から、すぐに解体工事を行う家屋は少ないとみられていて、現在よりも増加してしまう可能性があるとされています。

    固定資産税による影響

    固定資産税とは、土地や建物などの不動産所有者が毎年納めるべき税金のことです。
    固定資産税には、その土地が住宅の建つ住宅用地として活用されている場合、土地の評価額の1/6~1/3が軽減される特例があり、土地と住宅のどちらも所有している納税者のほとんどが、この特例を受けることができています。
    現在は空き家となっている家屋も、かつて住宅として活用されていたため、現在もこの特例が適用されている可能性があり、「解体して更地にしてしまえば、特例を受けられなくなって固定資産税が高くなってしまう」と考え、空き家を解体せずに放置している納税者も少なくないのです。

    特定空き家に対する措置

    ここからは、「特定空き家」と認定された空き家に対し、どのような措置がとられるのか見ていきましょう。

    現地調査と現況確認

    まず市町村が行わなければならないのが、空き家の所在と現在の状態を確認し、空き家の所有者を把握することです。
    現地に赴いて外観から調査し、データ上で空き家候補を抽出して空き家を特定し、建物登記や土地登記を活用したり、土地の所有者や近隣住民への聞き取り調査を行います。

    改善から強制撤去まで

    空き家特措法と聞いて、強制撤去を思い浮かべる方は少なくないでしょう。
    空き家対策の推進に関する特別措置法により、改善が見られなかった特定空き家に関しては行政による強制撤去が可能となったため、特定空き家に認定される=勝手に空き家を壊されるというイメージが根付いているのかもしれませんが、強制撤去が行われるのは命令後の猶予期間内に何らかの改善が見られなかった場合に限ります
    市町村が強制撤去に踏み出すまでには、いくつかのステップがあるのです。

    助言・指導→勧告→命令→強制撤去

    まずは所有者に対し、建物の解体や修繕等の措置の助言指導行います。助言・指導を受けても改善が見られなかった場合、猶予期限を設け、期限内に改善するよう勧告します。
    しかしこの勧告にも従わなかった場合、今度は改善命令が出されます。命令を出された際に、何らかのまっとうな事情により改善に向けた行動をとれないという場合には、意見書の提出や聴取により聞き入れてもらえることもありますので、必ずそのままにしておかず連絡を取りましょう。
    猶予期限を過ぎても命令に従わなかった場合、いよいよ強制撤去の対象となります。

    行政代執行による強制撤去

    所有者が命令に従わなかった場合、行政代執行により強制的に解体工事が行われることがあります。行政代執行は所有者に代わり解体工事という義務を果たしますが、その費用の一切は所有者に請求されます

    また、行政代執行による強制撤去は、それまでの命令等に従わずなんの行動もしなかった場合に限らず、着手していても完全に改善されていないと判断された場合、執行される可能性があります。所有者が設けられた猶予期限内にするべきことは着手することではなく、改善することだからです。

    行政代執行によるトラブル

    行政代執行にかかった費用は、特定空き家の所有者が負担することになります。
    万が一解体工事を行った際に所有者の支払い能力がなかった場合には、一時市町村により費用の負担がなされますが、その後所有者に再度請求されることになります。

    所有者がもう生存していない場合には、相続人に当る人物に請求されることになります。しかし、生前に相続の手続きが取られていなかった場合には、自動的に法定相続人を所有者とし、費用の負担が求められます。
    ところが、相続人が支払いに応じずトラブルになったり、裁判にまで発展してしまうようなケースもあり、行政代執行には問題も多くあります。

    特定空き家と認定されれば、固定資産税の特例が受けられなくなる

    住宅の建つ土地には、固定資産税による負担が1/6にまで軽減される特例がある、とご紹介しましたが、その住宅が特定空き家と認められ、行政による勧告の対象となった場合、この特例の対象から外されます
    つまり、固定資産税の節約のために空き家を放置していたとしても、勧告の対象となれば結局高い税金を支払わなくてはならなくなるのです。
    むしろ、住宅を取り壊してしまえば住宅にかかる固定資産税はかからなくなるわけですから、特例の対象外となった空き家とその土地の税金は、更地の状態にした時よりも高くついてしまいますから、そのまま放置しておいてもデメリットしかありません。

    まとめ

    特定空き家となり得る空き家所有者の中で、空き家問題を軽視してしまっている方は多く存在することでしょう。
    しかし、空き家問題の深刻化により、たった一軒の空き家から考えられる被害は計り知れません。防犯上の問題や倒壊・破損などの危険性ばかりでなく、税収への影響も考えられます。空き家の調査や所有者の把握、さまざまな措置、これらはすべて地域に収められた税金により自治体が動いているということも、忘れてはいけません。

    市町村は解体費用の安さよりも、迅速に対応してもらえる業者に依頼するため、行政代執行による解体工事の費用は、ご自身でよい業者を探して依頼したときよりも高くついてしまうかもしれません。
    金銭面から考えても、ご自身で改善に踏み出すのが一番の得策です。特定空き家に認定される前に、できるだけ早く行動を起こしましょう。

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