相続時には所得税はかからない!遺産相続で抑えておきたい税金の話

相続税

遺産を相続するときには相続税を払います。でも、相続は財産を受け取ることだから所得税を払わなければいけないのでは、と心配していませんか?

この記事では、相続には相続税と所得税がどのように関係しているのかを見ていきます。

相続時に申告しなければならないのは原則的に相続税のみです。しかし、相続に関連して所得税を申告しなくてはならない場合もあります。

相続税と所得税のポイントをしっかり抑えて、いざというときに慌てず、しっかりと手続きができるよう準備しておくと安心です。

遺産相続にかかる税金は所得税ではなく相続税

相続した財産はその年の「所得」(勤労・事業・資産等によって得た収入)にはならないので、確定申告で所得税を納める必要はありません。相続の際は、原則的に相続税を申告します。

相続税の課税

亡くなった人から遺産を相続した人は相続税が課税されます。ですが、相続税には基礎控除額が設けられており、控除額を下回る場合は課税対象になりません。

基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数

また、相続しても課税対象にならない財産もあります。故人の債務やお葬式費用も控除され、「未成年者控除」や「障害者控除」などの控除項目も設けられているので、当てはまる控除項目を確認し節税に繋げましょう。

控除できるもの
  1. 非課税財産

    1.墓所、仏壇、祭具など
    2.国や地方公共団体、特定の公益法人に寄附した財産
    3.生命保険金:500万円×法定相続人の数以下の金額
    4.死亡退職金:500万円×法定相続人の数以下の金額

  2. 定められている控除項目

    1.未成年者控除:相続人が20歳未満の場合、20歳に達するまでの年数1年につき10万円が控除。
    2.障害者控除:相続人が障害者の場合、85歳に達するまでの年数1年につき10万円(特別障害者の場合は20万円)控除。
    3.暦年課税に係る贈与税額控除:正味の遺産額に加算された「相続開始前3年以内の贈与財産」の価額に対する贈与税額の控除。
    4.相続時精算課税に係る贈与税額控除:遺産総額に含まれる「相続時精算課税の適用を受ける贈与財産」の価格分の贈与税の控除。

  3. その他控除が認められる費用

    1.債務:銀行からの借入、税金未納分、入院費・治療費未払い分、買掛金・未払金(故人が事業を行っていた場合)など
    2.葬式費用:通夜、葬式、火葬、埋葬、納骨等にかかる費用。ただし、香典返しにかかった費用、墓地の購入費用、初七日にかかった費用等は認められない。

相続時精算課税

贈与額が2500万円まで非課税になり、それを超えたものには20%の贈与税が課税される制度。贈与者が亡くなった際は、贈与された財産が相続財産に加算されて相続税が計算される。

参考: 相続時精算課税制度の利用を検討するときに注意すべきこととは

相続税の計算

各相続人が支払うべき相続税額は次のように算出されます。

1.遺産総額から基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を差し引いた課税遺産総額から、法定相続人それぞれの相続額を算出します。

2.各法定相続人の取得額から相続人ごとの相続税額を算出。各相続人が取得額にあった税率を掛け、取得額に対する控除額を差し引いて計算します。(下記【相続税速算表】参照)

3.法定相続人ごとの相続税額(2.で計算したもの)を合計したものが相続税の総額となります。

4.相続税の総額を再び相続割合で割り振り、各相続人の相続税額を再算出します。

5.最終的に各々の相続税額からそれぞれに適用される控除を差し引いたものが、各相続人が支払うべき税額になります。

【相続税速算表】

法定相続分に対する取得額 税率 控除額
1,000万円以下 10%
1,000万円超~3,000万円以下 15% 50万円
3,000万円超~5,000万円以下 20% 200万円
5,000万円超~1億円以下 30% 700万円
1億円超~2億円以下 40% 1,700万円
2億円超~3億円以下 45% 2,700万円
3億円超~6億円以下 50% 4,200万円
6億円超~ 55% 7,200万円

不動産の相続税

土地や建物などの不動産を相続した場合でも、相続税は発生します。宅地・建物それぞれ異なった評価で価値が算出されます。

宅地は主に路線価方式によって評価されます。路線価方式とは、路線(道路)に面する宅地1m²あたりの価格をもとに計算して土地の評価額を割り出す方式です。路線価が決まっていない場所は、固定資産税の評価額に一定の倍率を掛ける倍率方式で価値が評価されます。

路線価方式の例

道路に面した面が20m、奥行き20mの普通住宅地区、路線価2000円の土地の場合
2,000円×10m=200,000円
奥行価格補正率:1.00
面積:100m²
20万円×1.00×100m²=2,000万円
上記の計算の結果、2,000万円が土地の遺産額となります。

奥行価格補正率とは

道路からの奥行の長さに応じて路線価を調整するための補正率です。奥行きが長く使いにくい土地の評価を下げます。普通住宅地区では10m以上24m未満の奥行きの場合補正率は1.00となります。

参考: 奥行価格補正率表(昭45直資3-13・平3課評2-4外・平18課評2-27外改正)|国税庁

注意

土地は土地でも宅地と農地では相続の手続きが異なります。
農地は国内の食料供給の源なので、宅地のように簡単に売買や用途変更ができません。
農業委員会に、農地の相続等の届出書を相続を知ったときから10ヶ月以内に提出する必要があります。
また、相続しても農業を継がない場合に土地を売却するにも、農地の売買は農地法により制限がかけられます。
基本的に、農業を引き継がないで土地を売却したい場合は、農地のまま農家に売却もしくは農地以外に用途変更して売却するという2択が挙げられますが、いずれにしても、農地法により農地の売却や用途変更には農業委員会の許可が必要となります。

被相続人に課税されるのが所得税

原則的に、相続者は所得税を納める必要はありませんが、被相続人には亡くなった年の1月1日から亡くなった日までの収入に所得税がかかります。

被相続人の収入が源泉徴収されていたり、申告義務のない額の収入であれば特になんの心配もありません。

しかし、被相続人が自営業などで毎年確定申告をしていた場合は、相続人がその確定申告を代わりに行わなければなりません。これを準確定申告といいます。

被相続人に代わって「準確定申告」をするには

準確定申告とは、年の途中で死亡した被相続人の確定申告を相続人が代理で行うことをいいます。

所得があっても、すでに源泉徴収されていたり、特定の所得額よりも低い所得の場合は準確定申告の必要はありません。

被相続人が以下の条件に当てはまる場合は準確定申告する必要があります。

  • 個人事業主だった人
  • 給与所得が年2,000万円以上だった人
  • 給与所得以外の所得が20万円以上だった人
  • アパートや駐車場など不動産の賃料収入があった人
  • 公的年金受給額が400万円を超える人

通常、所得税は1月1日から12月31日までの年間所得を計算し、それに対する税額を翌年の2月16日から3月15日までの間に申告・納税します。

しかし、準確定申告の場合は相続の開始を知った日の翌日から4ヶ月以内に申告と納税をしないといけません。

  • 確定申告すべき人が翌年の1月1日から3月15日(確定申告期限)までの間に亡くなった場合は、前年分と本年分を相続の開始を知った日の翌日から4ヶ月以内の申告になります。
  • 複数の相続人がいる場合は、基本的に共同で準確定申告を行います。申請書に連名し提出します。

参考: No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)|国税庁

準確定申告でも所得控除は適用されます。準確定申告での所得控除は以下の点に注意しましょう。

  • 医療控除:控除の対象は被相続人が死亡日までに支払った医療費のみです。死後に相続人が支払ったものは準確定申告で医療費控除できません。
  • 社会保険料、生命保険料、地震保険料控除などの対象は、死亡日までに被相続人が支払った保険料等の額です。
  • 扶養控除や配偶者控除が適用されるかどうかの判定は死亡日の現況で判定されます。

参考: No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)|国税庁

申告期限が過ぎてしまうと、遅滞税がかかってしまいます。遅滞税は、法定納期限(法律によって定められた税金の納付期限)の翌日から遅れて納付する日までの日数に応じて加算されるので、納付期限はしっかりと確認しておきましょう。

相続人が所得税を払うとき

前述したとおり、相続人が得た財産には相続税が課税されますが所得税は課税されません。

ただし、相続人が相続した遺産から収入を得た場合は所得税の支払い義務が生じます。

例えば、相続した建物や土地の賃貸や売却で収入を得た場合などが当てはまります。

相続後は相続人の所有物になるため、そこで得た所得に所得税がかかるのは当然のことと言えますね。

近年は空き家に関する法律が厳しくなりつつあり、空き家所有者の管理も問われるので、建物を相続した場合は、相続後の使いみちもしっかりと考えましょう。自分が使わないのであれば、上記のように賃貸して収入源にする、売却するなどして収入を得るケースが多いようです。

相続した空き家を売却、賃貸するときの手順、流れ、必要なこととは?相続した空き家を売却、賃貸するときの手順、流れ、必要なこととは?

相続した実家の【空き地】有効活用法まとめ相続した実家の【空き地】有効活用法まとめ

死亡保険金に課税される所得税がある

死亡保険を受け取るときには、保険契約の内容によって所得税、相続税、贈与税を払うかどうか変わります。

保険料を支払う人と保険金受取人が同じ場合、所得税が課税されます。

たとえば、AさんがBさんに死亡保険をかけて保険料を支払い、Bさんが死亡したときにAさんが保険金を受け取る場合、Bさんにかけていた死亡保険金受け取り後、Aさんは所得税を支払わなくてはなりません。

保険金を受け取るときにはどのような契約だったのか今一度確認しましょう。

死亡保険に所得税が課税される場合、一時所得もしくは雑所得として課税されます。

MEMO
  1. 一時所得:死亡保険金を一時金で受け取った場合

    一時所得の金額は、保険金の総額から既に払い込んだ保険料もしくは掛金の額を差し引き、さらに一時所得の特別控除額の50万円を差し引いた額です。課税対象は、この金額を1/2にした金額です。

  2. 雑所得:死亡保険金を年金で受け取った場合

    雑所得の金額は、その年中に受け取った年金から、その金額に対応する払込保険料もしくは掛金の額を差し引いた金額です。ちなみに、年金を受け取るときは、原則として所得税が源泉徴収されます。

参考: No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)|国税庁

ちなみに、被保険者と保険料の負担者が同じ場合は相続税、被保険者、保険料の負担者、保険料の受取人がバラバラの場合は贈与税が課税されます。

相続したものを寄付して節税できる!

相続で得た財産をある一定の団体に寄付をしたら、寄付控除が適用され、相続財産から除外されます。

しかし、この寄付控除を受けるためには自身で所得税の確定申告を行う必要があります。

「会社勤めだから会社が年末調整をしてくれている」と思われるかもしれませんが、年末調整では、保険料や配偶者控除の計算あっても、寄付金控除は計算対象になっていないのです。

そのため、会社勤めであっても控除を受けるためには確定申告をしなくてはならないので注意しましょう。

寄付控除を受けるには

寄付控除が認められる団体はある一定の団体に限られています。基本的には、国や地方公共団体、赤十字やユニセフなどの認定NPO法人や特定公益増進法人となります。

寄付控除を受けるには相続税の申告書の提出期限(相続開始から10ヶ月以内)に寄付をしなくてはなりません。

寄付をするときには、相続税の寄付金控除を希望している旨を伝えると必要書類を発行してくれるので、予めその旨を伝えましょう。

そして、寄付をしたら領収書をもらいます。領収書もしくは寄付した支出が証明できる書類を相続税の申告書に添付して提出してください。相続税の申告書の第14表に寄付をした旨を記載できるようになっています。

ちなみに相続税で寄付金控除をうけたものから、さらに相続人の所得税の寄付控除も受けることができるので、二重で税制待遇が受けられます

相続時の所得税についてのまとめ

相続税と所得税の違いを把握することで、自分は相続税以外も支払い義務があるのかどうかが分かります。

誰かが亡くなったときは、精神的にも身体的にもつらい状況になってしまうことでしょう。そんな中、税制上の手続きについて何も知らない状態からのスタートだと負担は大きくなってしまいます。余裕があるときに基本的な情報を集めておくと、いざというときにスムーズに対応できます。

申告漏れのないようにしっかりと手続きをして、控除は最大限に適用し、遅滞税など余分な税金は最小限に抑えましょう。