財産を相続するなら「現金」と「不動産」のどちらがお得?節税を巡るポイント

現金不動産ではどちらが節税効果が高いのでしょうか?親が亡くなり、自宅と現金(預貯金)を相続する。遺産相続の一般的なケースです。親族間の遺産分けも簡単だと思いがちですが、シンプルなケースでトラブルになることもあります。特に有価証券、家財道具や美術品などの名義変更の煩わしさを嫌って、「現金」での相続を望む相続人もいます。

また、不動産についても分割となると、現金にしなければ均等に分けることはできません。被相続人の資産状況を調べ、相続トラブルを回避するためにもよく話し合いを行い分割協議を進めていく必要があります。

税制上は現金を不動産化するほうがお得!土地・物件の資産価値の算出法とは?

相続財産で現金(株式などの有価証券を含む)で1億円保有していたと仮定します。※法定相続人が子ども2人のモデルケースで、現金と家屋や土地にして相続する場合の相続税の算出方法を比べてみましょう。

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法定相続人とは
法定相続人とは「民法」で定められた相続人をいいます。 被相続人の配偶者は常に相続人となります。 被相続人に子がある場合には、子と配偶者が相続人となります。 ただし、子が被相続人より先に亡くなっている場合等は、直系卑属(孫・ひ孫等)が相続人となります。

現金のままの場合

まず、1億円から基礎控除額を差し引きます。基礎控除額は3000万円+600万円×相続人の数で計算します。

① 1億円?(3000万円+600万円×2)=5800万円 ➡一人当たりの税法定相続分に応じた取得金額はその半分の2900万円となります。
さらに、基礎控除額3000万円以下の場合、相続税の計算は税法定相続分に応じた取得金額×15%?=50万円となるので、一人当たりの相続税の金額は…
② (2900万円×15%)×50万円=385万円となります。
よって、2人分の相続税の総額は
③ 385万円×2人=770万円となります。

家屋や土地を買った場合

1億円で家屋を買って相続した場合は、固定資産税の評価額が適用されるので物件の評価額は…

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固定資産税評価額とは、固定資産税を賦課するための基準となる評価額。 固定資産税は、市町村が毎年1月1日現在の土地、家屋等の所有者に対し、その固定資産税評価額をもとに課税する税金のこと。
①1億円×70%=7000万円
となります。先程の相続税と同じように計算していきましょう。
②7000万円-(3000万円+600万円×2)=2800万円
③(2800万円÷2)×15%-50万円=160万円
よって、相続税の総額は160万円×2=320万円となります。

1億円で土地を買って相続した場合、路線価による評価額が適用されるので、その土地の評価額は…

①1億円×80%=8000万円
となります。相続税と同じように計算すると…
②8000万円?(3000万円+600万円×2)=3800万円
③3800万円÷2×15%?50万円=235万円

相続税の総額は235万円×2=470万円となります。

不動産の評価額は取引価格より低く設定できる

相続税の計算をする際、まず相続財産の評価額を算出します。そのときに現金や預貯金、株式などは時価と同等の評価額になりますが、不動産は土地も家屋も取引価格よりも低い額で評価されます。これを利用して相続税を節税することができるのです。

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宅地・家屋の評価額とは
①宅地の場合➡路線価または倍率方式(固定資産税評価額)を元に算出します。路線価は、一般的に時価の80%、固定資産税評価額の70%で評価されます。
②家屋の場合➡固定資産税の評価額をもとに計算されます。時価の70%程度で評価されます。

現金のまま相続するよりも、家屋を購入すると450万円、土地を購入すると300万円相続税が軽減されることになり、節税効果は確かに高いことがわかります。ただし納税資金として現金を別に準備しておくことが必要となるので注意しましょう。

1円単位できっちり分割!相続トラブル回避に現金の相続は効果的

遺言書がなく相続人が複数いる場合は、遺産分割分協議を行います。その際、相続財産が不動産のみの場合、公平に分けることが難しく相続争いにつながります。

相続財産が土地・建物だけしかない場合には現金がオススメ!

不動産を売却して現金化してもすぐに売却できるとは限らず、思ったほどの売値がつかない場合があります。その点、現金や預貯金はお互いが納得すれば、1円単位まで分けられるのです。

また、相続財産が不動産の場合、納税で困る可能性があります。ですが、現金や預貯金があれば問題ありません。現金や預貯金は相続が完了すればすぐに使えるうえ、しばらく用途がないのなら、通常より金利が高く設定されている、※相続定期預金に預入れも可能です。

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相続定期預金とは
相続定期預金とは、相続した資金を預け入れることによって、初回満期日まで上乗せ金利が適用される定期預金。

現金・タンス預金を申告しなかった場合のペナルティ

相続税における税務調査の実施割合は約20%と言われています。調査に入った家庭の中で約80%が申告漏れを指摘されていると報告されています。特に現金・預貯金に対する追及は厳しく、過去数年の預金の動きや引き出した現金の用途を徹底的に調べられます。

こうして税務署の指摘を受けてから修正申告を行うと、ペナルティが課されるので注意が必要です。延滞税のほか、過少申告加算税や、財産隠しと認められた場合には重加算税が課せられます。なお、自主的に修正申告を行った場合には加算税が免除されるので、気付いた時点で早めに修正申告をするのが得策です。

贈与税の非課税枠も限度がある

生前に子どもに現金を贈与して相続財産を減らす方法もあります。しかし、年間で一人にあたり110万円を超えると贈与税が発生します。また「教育資金の一括贈与」や子育て資金の非課税といった効果的な方法もありますが、それぞれ限度額や制限があるため、「節税」の観点では現金を不動産化したほうが効果が大きいといえます。

アパート・マンションなどの経営はよく検討したほうがよい

不動産での相続が節税に向いていますが、相続方法はひとつではないので「現金がいい」という相続人が多ければ、それがベストの選択です。

建設費用をローンで組むと借金が残る

相続時点で現金・不動産共に資産評価は同じですが、不動産の場合は「減価償却」により年月が経つほど価値が下がります。また、アパートやマンション経営を考えた場合、新たにローンを組むなどして借金する場合があります。

空室のリスクとリフォーム費用

資産評価が目減りしていくので、「不動産運用」を検討する人は多いものの、周辺に競争相手の賃貸住宅が建ったり、入居者が埋まらないと悪循環に陥ります。不動産が供給過多となっていく今後、よほど立地的に恵まれていない限り、空室のリスクが発生する恐れがあります。

また、住宅は時間が経過すると、老朽化した部分を補修するためのリフォーム費用がかかります。エレベーターのある物件は需要が見込めますが、修繕費用が数百万円もかかるので、修繕計画をあらかじめ立てておきましょう。

不動産運営のデメリットと「共同名義」のリスク

複数の相続人が名義上、複数名での共有が多くなっています。現金での遺産分割を選択せず、相続人同士の資産格差を抑えるためです。しかし、アパート・マンションの所有者を複数の相続人にした場合、所有者同士の意思決定が難しくなります。

例えば、長男は空室が続くなかでリフォームを提案しても、次男が「お金がない」と反対するのです。その間も空室は増加し、損失が拡大する悪循環に陥ります。

まとめ

現金より土地や建物などを購入したほうが節税効果は高く、さらにその土地や建物を他人に賃貸していることでさらなる節税効果が生まれます。しかし、相続税の納税が最優先ですので、手元に現金がなければ不動産売却も考えなければなりません。

重要なのは「現金」「不動産」の資産価値を見極めたうえで、どちらかに資産を集中させないことです。リスク分散を前提にバランスの良い資産運用を相続時に考えましょう。