固定資産税がいきなり6倍に?「特定空家」指定とは

特定空家の固定資産税6倍

土地や建物を所有していると、固定資産税がかかるということは周知のことでしょう。ですが、土地にかかる固定資産税は、建物が立っているか更地かで6倍もの差がつくことはご存知でしょうか。

建物が立っている土地では、固定資産税が6分の1に軽減されているのです。物件を所有している皆さんが、毎年支払っているのはこの軽減された方の金額なのです。もし、この軽減措置がなくなって、固定資産税が6倍になったらどうなるでしょうか?

そんな金額を納税するなんて無理と思う人もたくさんいるのではないでしょうか。でも、例えば、親御さんが老人ホームに入所して、実家に誰も住む人がいなくなったとか、実家を相続してそのまま放置しているような場合があれば、そんな固定資産税の上昇リスクにさらされていることになります。

え?空家を所有しているだけで何のリスクがあるの?と思うかもしれませんが・・

空き家対策特別措置法の施行により、特定空家として指定を受けてしまうと、建物が立っていても更地と同じ課税がされるようになるからです。空き家を所有している(これから相続などで所有するかもしれない)人は、今こそ真剣に空き家対策を検討しておくべき時期といえるでしょう。

空き家対策特別措置法とは

平成25年度に実施された住宅・土地統計調査によると、全国の空き家は820万戸存在し、5年前の調査から60万戸増加。日本の総住宅戸数のうち13.5%を占め、過去最高となったことが分かっています。このように管理されていない空家が増加し続けることによって、地域住民の生活環境に深刻な悪影響を及ぼしているケースが目立ってきました。

空家の増加が社会問題化してきたことを背景に、空家等対策の推進に関する特別措置法が施行されます。同法は、おおまかに自治体の権限を強化して、空家を「再利用」するか「解体」するかの推進をしていくための法といえるでしょう。

空き家対策特別措置法施行前の問題点

空き家が増えていた要因の一つに、空き家の所有者が負担する固定資産税の問題がありました。通常は住宅用地の特例措置といって、土地にかかってくる固定資産税は、建物が立っていれば本来かかる納税金額の6分の1に軽減されますが、建物を解体して更地にしてしまうと、税の優遇措置がなくってしまい、建物をそのまま放置しておいたときより高くなってしまうのです。つまり、空き家をそのまま放置しておいた方が所有者にとってお得だったのです。(解体費用をかけて空家を解体し、さらに固定資産税まで高くなってしまうという現象・・大抵の人はブレーキかかるでしょう)

空家と更地の固定資産税

固定資産税の算出例

例えば、200㎡の土地があったとして、「更地の場合」と「建物が立っている場合」で固定資産税の違いを計算してみましょう。(ここでは細かい端数は切り捨てますので、だいたいの目安としてください)

土地の課税標準額2,000万円
建物の課税標準額1,000万円

建物が立っている場合
 土地の固定資産税:2,000万円×1/6×1.4% = 4.6万円
 建物の固定資産税:1,000万円×1.4% = 14万円
 合計 18.6万円

更地の場合
 土地の固定資産税:2,000万円×1.4% = 28万円
 合計 28万円

というように、更地だと約10万円も固定資産税が高くなってしまうというわけです。

この他、空き家が増えていた要因として、所有者を把握するのが困難という問題と個人情報保護制度上の制約などもありました。これは、空き家になるきっかけが、所有者の死亡や老人ホームへの入居、住まいの転居など様々で、住宅の登記情報だけでは所有者の追跡が困難であったことや、より所有者を特定できる可能性の高い税情報(固定資産税)を活用できなかったのです。

空き家対策特別措置法施行後に変わること

こういった空き家が増加してきた過去の問題点をクリアにして、国として空き家対策を強化していこうというのが同法で、施行される2015年以降、市町村の対応は次のように変わっていくでしょう。

市町村の権限強化

同法に基づき、市町村には下記の権限が付与されることとなります。

  • 法律で規定する限度において、空家等への立入調査(9 条)
  • 特定空家等に対しては、除却、修繕、立木竹の伐採等の措置の指導・助言、勧告、命令が可能。 さらに、要件が緩和された行政代執行の方法により強制執行が可能。(14 条)

税情報の活用による所有者把握

より所有者を特定しやすい税情報を利用することが可能になります。

  • 空家等の所有者等を把握するために固定資産税情報の内部利用(10 条) 等が可能

空き家解体費用の補助や固定資産税優遇措置

今まで、空き家を解体すると固定資産税の優遇措置が受けられなくなるという問題がありましたが、自治体の権限を強化するとともに、支援策を行っているところもあります。

例えば、文京区では、実際に解体工事を行った際の補助金が最高200万円(消費税含む)まで交付されたり、荒川区では、一定条件を満たした建物を解体して更地にする場合、その後の5年間は土地の固定資産税等を80%減免するなどの支援があるようです。

特定空家は固定資産税の住宅用特例の対象外

市町村で危ないと判断された空家(倒壊の危険等がある空き家)は、特定空家として認定されることがあります。認定された場合、その土地にかかる固定資産税の軽減措置(住宅用特例)が対象外となり、たとえ建物が立っていたとしても、更地同然の課税になり、土地の固定資産税が6倍に増加してしまいます。

さらに、特定空家に認定された場合、市町村は所有者に対し撤去・修繕などを指導・助言し、従わなければ命令までできることになっています。そして、その命令に従わなかった場合は、50万円以下の過料に処せられます。

そしてさらに、それでも所有者が従わなかった場合は、行政代執行で撤去することもできるようになっています。

(参考)同法での空家の定義

同法では、空家が下記の通り定義されています。
建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが 常態であるもの及びその敷地(立木その他の土地に定着する物を含む。)をいう。ただし、国又は地方公 共団体が所有し、又は管理するものを除く。(2 条 1 項)

(参考)同法での特定空家の定義

同法では、特定空家が下記の通り定義されています。

  • 倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
  • 著しく衛生上有害となるおそれのある状態
  • 適切な管理が行われないことにより著しく景観を損なっている状態
  • その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態 にある空家等をいう。(2 条 2 項)

というように定義されており、詳細は別途ガイドラインで公開されるようです。

でも、なぜこれほどまでに空き家が問題視されているのでしょうか

なぜ空き家がこれほどまでに問題視されているのでしょうか?別に人様に迷惑がかかる訳でもないし、放っておいても構わないのでは?と思う人もいるかもしれませんね。でもとんでもない、空家が存在しているだけで、近隣地域に深刻な迷惑がかかっているケースも多いのです。

危険な空家

想像してみてください、自分の隣家が空き家になって、ゴミ屋敷化して景観を損ねていたり、悪臭がするようになったり、雑草繁茂や火災の危険性などがでてきたとしたらどうでしょうか。そうなんです、空き家は長期間放置され老朽化すると、周辺の地域や環境に様々な問題をもたらすようにもなるのです。

国土交通省が 全国の市町村に対し実施した調査によると、次のような悪影響が確認されています。

  • 風景・景観の悪化
  • 防災や防犯機能の低下
  • ゴミなどの不法投棄等の誘発
  • 火災の発生を誘発
  • 悪臭の発生
  • 蚊、ハエ、ねずみ、野良猫等の繁殖
  • 建物の倒壊、落下物等のリスク
  • 雑草繁茂、大量の落ち葉、樹枝の越境
  • ホームレスの住みつき等

誰だって、こんな空き家が自宅の隣にあったら嫌でしょうし、地域イメージも低下して引っ越してくる人も少なくなるかもしれませんし、いろいろと社会に与える影響も多そうです。決して所有者個人だけの問題ではなく、一種の社会問題といえるでしょう。

今後、考えられる空き家対策とは

空き家を所有しているひとは、今までの固定資産税が6倍にもなる可能性があるということを意識して、自己資産防衛の一環として、真剣に空き家対策を検討した方がいいでしょう。

固定資産税は、1月1日時点の所有者に納税義務が発生するため、実際に特定空き家に注意しなければならないのは2016年以降になりますが、検討は早いに越したことはありません。

いま考えられる空き家対策をあげてみますので、参考にしてください。

  • 空き家管理代行会社に管理を委託する
  • 空き家を賃貸物件として活用する、空き家バンク等に登録する
  • 空き家を売却する
  • 空き家を更地にして土地を売却する
  • 空き家を解体してコインパーキングなどに転用する

つまり、単に空き家資産を所有しているだけでは固定資産税の支払いが膨らんでってしまうので、キャッシュを生み出す資産にかえるとか、売却等で負債の根源を断つ等、なにかしら検討を行っておく必要があるのではないでしょうか。これからは人口減によって、住宅供給が需要を大幅に上回って売却も難しくなっていくことが予想されますし、人より早く対策を実施しておくことが自己資産の防衛につながるのではないでしょうか?

実家が負債にかわるまえに

実家を相続するときに相続税を支払って土地と建物の資産を得たのに、固定資産税が増えるだけで、売却もままならず、あれ?なんで資産が増えたはずなのに、どんどん生活資金が減って苦しくなっていくわけ?というようなことに巻こまれないように・・人より早く手を打っておいた方がいいでしょう。特に地域にもよりますが、オリンピック前の時期であれば、物件需要はありますし。

幼少期を過ごした思い出の実家・・という思いもあるでしょうが、決断するのであれば早めに重い腰を上げておいた方がよさそうです。

まとめ

空き家対策特別措置法は、2015年5月26日全面施行され、市町村による立入調査や特定空き家に対する指導、勧告、命令、代執行、過料についての規定も施行されることとなります。同法の最大の特徴は、自治体の権限を強化したことと、所有者を金銭罰に処することが可能になったことでしょう。市町村が、空き家の所有者を税情報から把握でき、倒壊などの危険性のある空き家については、最終的に市町村で強制撤去まですることが可能になります。また、今まで知らぬ存ぜぬを決め込んで空き家を放置していた所有者に対しては、過料に処することもできるのです。

空き家の所有者が特定空き家を放置した場合に生じる可能性のある金銭的負担をまとめると、

  • 住宅用地特例措置が対象外になり、土地の固定資産税が6倍になる
  • 市町村の立入調査を拒み、妨げ、又は忌避した場合、20万円以下の過料
  • 市町村からの撤去・修繕命令に従わなかった場合、50万円以下の過料

そして、最終的に行政代執行による空き家の強制撤去も可能なのです。

同法により、政府は「空き家問題」を深刻な社会問題とうけとめ、ようやく本腰を入れたといえるでしょうか。

空き家対策の検討は、早いに越したことはありません。いまこそ、重い腰をあげて一度真剣に検討しておくべきでしょう。

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