空き家問題も社会問題化し、建物の解体工事を検討される方も多いと思います。
しかし、自宅を解体したいけれど隣家との距離がほぼない状態……案の定、隣家の屋根や壁を損傷してしまい、補修費用を請求されるような隣家とのトラブルが起きるケースは少なくありません。
これは、民家でもビルでもマンションでもあり得ることです。
では、実際に解体工事でどのような隣家への被害をもたらす可能性があるのでしょうか。
また、解体工事によって隣家を損傷してしまった場合、隣家の補修工事の費用は誰が負担するべきなのか、補修工事のトラブルの事例をもとに、対策方法をご紹介いたします。
もくじ
想定される解体工事による隣家の補修工事
解体工事では、騒音や埃などによって自宅の窓も開けられず、洗濯物が干せない、境界線を越えての工事に困っているなどのケースもありますが、隣家に直接的な被害が生じてしまうケースももちろんあります。
解体工事によって想定される隣家への損傷・トラブルは下記のような例が挙げられます。
隣家の解体工事で実際に起きたトラブルの事例
実際に隣家の補修工事で悩みを抱いた人の声
こちらは実際に解体工事に伴う隣家の損傷による悩みを抱いた人の声です。
土地の所有者ですが、現在、三軒長屋を含むその他の家屋を裁判所の指示により取り壊しの最中です。
その三軒長屋のうち真ん中の家は旧家屋所有者より現住者が購入しています。
現住者より両隣を壊されると自分の家まで崩れてしまいそうだと苦情がきました。家の補強費用の負担を求められた場合負担をしなければいけないでしょうか?
引用:OKWAVE
今回のお悩みは、まだ「崩れてしまいそう」の段階ですが、実際に隣家の住人に補修工事の費用を求められた場合、解体工事の施主側が隣家の補修費用を払うべきなのでしょうか。
隣家との補修工事の費用負担や保険、トラブルの対策などをご説明していきます。
隣家の補修工事。法律や損害賠償保険について
隣家が解体工事で損傷した場合、補修工事の費用負担は誰がどのように責任を負うかは2つのケースに分けられます。
(1)解体業者の不注意や不手際で隣家を損傷したケース
解体工事の作業中に、隣家の建物が損傷してしまった場合は、民法709条に基づき解体業者が損害賠償金を支払うことになります。
第709条(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
この場合、解体工事業者が損害賠償保険に加入しているかを確認する必要があります。
損害賠償保険に未加入の解体業者は未だにいるそうなので、解体業者を選ぶ際は必ず確認してください。
損害賠償保険の加入の有無だけではなく、「加入している保険の限度額はいくらか」「事故の適用範囲はどこまでか」といったことまでの確認もしておくとよいと思います。
可能であれば、保険証券のコピーを見せてもらって内容を把握しておくと安心です。
(2)解体工事を依頼した側の責任になるケース
民法 第716条(注文者の責任)
注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない。ただし、注文又は指図についてその注文者に過失があったときは、この限りでない。
基本的には民法第716条により、依頼者である施主に損害賠償責任はありません。
しかし、民法第716条の但し書きにもあるように、施主側が注文または指図した場合は責任が負うこともあります。
例えば、施主の指示に問題があった場合や、逆に施主が何も指示をしなかったがために事故に繋がった場合も施主側の責任になります。
つまり、施主が解体工事中に隣家への被害を発見した、あるいは、被害がさらに大きくなることが想定できたにも関わらず、解体業者に伝えることなく工事を止めなかった場合は、「過失」とみなされる場合があるのです。
解体工事での損害賠償保険の種類
解体工事での賠償保険にも様々な種類があり、代表的なものとして下記の保険があります。
会社単位で加入する保険です。
年間の売上金額によって保険額が決定し、その年の全ての工事が保険対象になります。
工事現場ごとに加入する保険で、工事の請負金額により保険料が決定し加入した工事にのみ適用される保険です。
通常よりリスクの高い工事現場だけに加入されることが多いです。
重機やトラックなど、車両単位で加入する年間の保険で、それらの機械が関係する工事だけに適用される保険です。
隣家を損傷し、補修する必要がでてくるような直接的なトラブル以外にも、従業員が負傷する事故や、解体工事中に外壁が倒壊し、通行人や車などに接触してしまうトラブルも考えられます。
もし、事故が起きてしまった場合には、解体業者が保険に加入しているかどうかがとても重要です。
依頼する解体業者がどの損害賠償保険に加入しているか、事前に確認しておきましょう。
隣家の補修工事で揉めないために、工事協定書の作成などの対策を。
解体業者の過失により隣家を損傷した場合、補修工事の費用について、解体工事を依頼した施主側には、法律的に損害賠償責任がないことが原則だということがお分かり頂けたと思いますが、前提として解体工事業者の協力が必要不可欠です。
では、隣家と補修工事などによるトラブルに陥らないためには、解体工事前にどんな対策がとれるでしょうか。
工事協定書などを作成して約束事を記録
これは、隣家と接近して建っている建物以外にもいえることですが、家の前のスペースが狭い場所や条件が悪い場所での解体工事の際は、必ず約束事として工事協定書を残しておくことが大切です。
工事協定書は、工事期間、作業時間、車両侵入方法、警備員の配置などを書面にしたもので、発注者、施工者、隣家の住民の間で約束事を記録するものです。
こちらが工事協定書のイメージです。
https://blog.kaitai-guide.net/blog/wp-content/uploads/2017/05/20061115113758.pdf
工事協定書を作ることは、業者の義務ではないとされています。
解体業者側が作ると業者側に有利な協定書を結ぼうとするところもあるので、法令の遵守、危険防止、完成後の補償など、なるべく細かく具体的に規定しておいたほうがよいでしょう。
また、業者側が「誠意をもって対応するものとする」というような書き方の協定書は危険ですので注意してください。
また、工事開始前の家屋調査も重要です。
解体工事で隣家にリスクがありそうな箇所は、家屋のひび割れや傾きの有無、外壁や基礎、家屋内部の壁や天井なども工事前に写真を撮るなどして記録に残しておきましょう。
解体工事の途中にその工事前の状況から変化が生じていることが分かった時点で、場合によってはすぐに補修工事にとりかかる必要がでてくるでしょう。
そして、それ以上の被害が出ないための対策を業者に求めることも施主として必要なことです。
大前提として隣家への挨拶はしっかりと行うこと!
解体工事は、直接的被害だけでなく騒音や振動もつきものです。
これは特別なことではなく、誰しもが行う可能性があることで、言ってしまえば仕方がないことですが、やはり大前提として、隣家への挨拶はしっかりと行うべきです。
当たり前だと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、解体工事の現場が遠方であったり、ずっと住んでいない空き家だったりすると、解体業者任せにして、隣家への挨拶を行わない人も少なくありません。
なるべく解体業者とともに、隣家への挨拶には同行することをおすすめします。
解体工事で損傷してしまった場合、隣家への挨拶はどうするべき?
解体工事が原因で隣家が損傷してしまった場合、謝罪は早急に行きましょう。
元々良い関係性の仲でも、菓子折り程度は持っていった方が良いと思います。
隣家の人によっては、補修工事とともに金銭の要求をしてきたり言いがかりをつけてくる人もいます。
言いがかりをつけられ、ご自身で判断しづらいことがあれば大きなトラブルになる前に、解体業者に確認をしてプロの判断を仰ぐようにしましょう。
解体業者は保険に加入しているので、業者負担で和解をすることも場合によってはあります。
隣家とのトラブルを早く落ち着かせようと焦って判断してしまうと、施主側が損をしてしまうことにもなりかねませんので冷静な判断をしましょう。
隣家への挨拶の仕方が分からないという方は、こちらの記事に詳しく掲載しているので参考にしてください。

まとめ
隣家を損傷する可能性があるトラブルは、解体工事だけでなく建築する際にも関わることです。
近年、住宅密着地における建築や解体工事における隣家とのトラブルは多発しているともいわれています。
解体工事をしたことで隣家に被害が及び、補修費用を求められた場合、必ずしも施主側の責任になるというわけではありません。
焦って補修工事の費用を支払ってしまう前に、一度冷静になって、事実確認と解体業者の損害賠償保険への加入を確認するようにしましょう。
補修工事には多額の費用も発生するので、解体業者と協力をして事前にしっかりと対策をしたいですね。