危険家屋解体後の課題とは?東京弁護士会空き家対策法セミナーの考察

危険家屋解体後の課題とは?東京弁護士会空き家対策法セミナーの考察

空き家対策法は駆け込むように決定し、2015年5月26日より施行されました。

この法律は、全国に広がる危険家屋の解体を促す法律で、弁護士会の中ではこの空き家対策法に関してよく議論されています。

シンポジウムという形で定期的に開かれ、2014年11月25日開催の東京弁護士会のシンポジウムでも「空き家対策法に関するセミナー」について議論がされていました。

このシンポジウムでは、全国の「空き家」について中心に議論され、人が住んでいない「空き家」が853万戸もあると発表されていました。2013年の総務省の発表より更に増えていることがわかりました。

この中には売却中の建物や別荘など、使用目的が決まっている建物も含まれています。そのような「空き家」は特に問題はありません。

老朽化が激しくすぐにでも解体工事や撤去が必要な空き家は、268万戸(全体の約35%)と調査結果が発表されていました。

都心部にいると「本当に空き家は増えているのだろうか?」そう思われるかもしれません。

しかし実際空き家は増え続けており、そう遠くない未来に空き家率が40%を超える時代が来るともいわれています。

空き家が増え続けることによって、日本社会はどういった問題が表面化してくるのでしょうか。増え続ける空き家に歯止めを利かせるため、「空き家対策法」が制定されました。空き家にまつわる今後起こるであろう可能性や課題と問題、そして対応をまとめました。

撤去が必要な空き家率ランキング(全国版)

まず、空き家が全国にどれくらいあるのか知る必要があります。きっと都心部より郊外の方が空き家は多いと思われるでしょう。都道府県別では、どの地域が空き家問題が深刻なのでしょうか。

そして今すぐにでも、解体工事を行って撤去しなければ、何かしらの被害が起こってしまう空き家はどれくらいなのでしょうか。

セミナーで発表されていた情報は、全国平均は空き家が約5.3%です。
では、各都道府県ごとでは一体どれくらいの割合なのでしょうか。

以下が、全国の撤去が必要な空き家率の順位です。

  • 1位 鹿児島県(11%)
  • 2位 高知県(10.6%)
  • 3位 和歌山県(10.1%)
  • 4位 徳島県(9.9%)
  • 5位 香川県(9.7%)
  • 6位 島根県(9.5%)
  • 7位 愛媛県(9.5%)
  • 8位 山口県(8.9%)
  • 9位 三重県(8.3%)
  • 10位 鳥取県(8.3%)

鹿児島県、高知県、和歌山県は空き家率が10%を超えております。
10位まで見てみると南側に多いというのがわかります。

日本の南側にすぐにでも撤去が必要な建物が多い理由として考えられることは、北側の地域に比べて頑丈ではない造りをしているからではないでしょうか。もちろん、普通に住むには十分な耐震性を保有していますが、経年劣化によって危険家屋になるでしょう。

逆に北国など雪の積もるような地域は、建物自体頑丈に作る必要があり、壊れにくい設計なため空き家とはいえ長く住める造りになっているから、倒壊などの危険性のある建物が少ないと推測できます。

全国の危険家屋、268万戸のうちの内訳

老朽化が激しくすぐにでも撤去が必要な空き家、268万戸のうち木造戸建て住宅が173万戸(全体の65%)です。

その内訳を見てみましょう。

  • 木造戸建て住宅が173万戸(全体の65%)
  • 腐敗、破損のある住宅が61万戸(全体の23%)
  • 敷地が幅員4m未満の道路に接する住宅が115万戸(全体の43%)

倒壊の可能性が高い建物、または接する道路の幅が狭く解体工事がしにくく再建築しにくい立地に建つ建物が多く残っています。

また、小路に隣接し倒壊の危険がある建物を放置しておくと人的被害につながると考えられます。しかし小路など重機が入りにくい場所に建っている建物は、解体工事を行う際、人力で行うため費用が跳ね上がってしまう可能性もあります。

危険な老朽家屋がもし被害を与えたら?!

通行人やご近所の方に、老朽家屋が何かしらの被害を与えた場合、民法717条において賠償責任に発生します。

(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
第七百十七条  土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
2  前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。
3  前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。

引用:民法

しかし、解体費用が高額だからといってそのまま放置した場合、人的被害を与えてしまう可能性もあるため早急に解体することをお勧めします。

こういった危険家屋を解体する際に、申請をすれば補助金や助成金などが出る地域もあります。解体工事を行う役所に問合せてください。予想以上に、自己負担が少なく解体工事ができるかもしれません。

空き家の撤去命令:行政代執行の事例

危険家屋を放置し続けると、行政より撤去命令が下ることもあります。行政命令を無視し続けると強制的に「行政代執行」が行われます。

先日、東京都大田区で老朽化した空き家の所有者が撤去命令に従わなかったため、行政の「代執行」が行われました。
その一連の流れがシンポジウムで取り上げられていました。

行政代執行経過

  • 1.平成18年から、近隣からの苦情が寄せられる
  • 2.所有者に「改善文書」送付
  • 3.消防署が「危険排除」のため出場(複数回)
  • 4.「指導書」を送付
  • 5.「勧告書」を送付(1回目)
  • 6.「勧告書」を送付(2回目)
  • 7.立入調査を実施
  • 8.「勧告書」を送付(3回目)
  • 9.適正管理に係る判定委員会開催
  • 10.条例の基づく「命令」を送付
  • 11.行政代執行対策委員会開催(1回目)
  • 12.公表用の「看板」を現地に設置
  • 13.代執行に基づく「戒告書」を送付
  • 14.行政代執行対策委員会幹事会開催
  • 15.アスベスト調査を実施
  • 16.行政代執行対策委員会開催(2回目)
  • 17.代執行法に基づく「代執行令書」を送付
  • 18.平成26年5月、行政代執行開始
  • 19.行政代執行終了(作業日数16日)

この行政代執行の事例から、今後の空き家の処理に関して行政や弁護士で「空き家対策法」に基づいた対策を考えていくそうです。

行政は「現在の所有者」が特定できず、通知・勧告・命令ができないことがある。
危険家屋であっても、撤去に対する強制力がないことが課題らしく、弁護士と共に「現在の所有者」の特定や、所有者が円滑に処理を行えるよう、スキームを作っていくそうです。

余談ですが、行政代執行が行われた場合の解体費用は、所有者に納付命令という形で徴収される場合もあります。経済的な事情で解体工事が行えないため放置していることも考えられますが、納付命令という形になると大変なことになりかねません。
地域によっては補助金など利用できる可能性もあるため、確認してみるのがいいでしょう。

危険な空き家の撤去に関する課題

仮に所有者が特定ができたとしても、空き家の撤去には数多くの課題があります。

  • 1.更地は、固定資産税が跳ね上がる。おおよそ3~4倍。
  • 2.更地にすると「借地権」が消滅する。
  • 3.相続人が一人でも方針に反対すると、それ以上進めない(民法第251条)。
  • 4.工事費用を負担できない所有者の経済事情。
  • 5.居住地が遠方で、空き家管理が面倒である。
  • 6.未接道だと再建築が不可能に近い。複数で通路を使用しているとさらに困難。

これらの課題を解決しないかぎり、老朽化し今すぐにでも解体工事を行わないと被害が置きてしまう可能性のある空き家の解体は難しいでしょう。しかし、そのまま放置しておくわけにもいきません。各自治体において、これから「空き家」の撤去に関する条例が制定される可能性もあります。今後の自治体の動きに注目です。

老朽化した危険家屋

空き家の所有者の特定が進むと、行政からの通知・勧告・命令が徹底され、意識は高まるでしょう。そして今後、個人での解体工事を依頼する方が増えていくでしょう。だからこそ、解体工事に関する知識を身につけ、少しでも得をする解体業者選びが大切です。

大田区のような代執行は稀なケースで、行政はなるべく所有者に費用負担をしていただき、早めに撤去していただきたいようです。
空き家対策法が可決され、解体工事の費用負担が助成される流れになるかと思いました。そうではなく、通知・勧告が厳しくなり、所有者は今までのように空き家を放っては置けない状況になります。

何の準備もなく、突然解体工事を行わなければならないということも考えられます。

空き家の所有者は、空き家の撤去や土地の活用方法など、すぐにでも考えていく必要がありそうですね。

まとめ

解体工事の情報を届ける上で、行政や弁護士の動き、考えなどを知ると今後どのような流れになっていくかわかります。

全国的にも空き家が増えてきており、人が住んでいない空き家が853万戸あり、その中でも解体工事などが必要な危険家屋が268万戸あるそうです。中でも、鹿児島県や高知県、和歌山県は10軒に1軒は、今すぐにでも解体工事が必要な危険家屋です。

今すぐにでも撤去が必要な空き家を減らしていくため「空き家対策法」が制定されました。その「空き家対策法」に関しても、単純に助成金や補助金などが増え、解体工事を促すものだろうと考えていました。

そうではなく、行政からの通知や勧告、そして命令などが徹底され、解体工事を行わなければと不安な気持ちが強くなるでしょう。

これから益々解体工事が必要な世の中になっていきます。
正しい情報をキャッチし、少しでも有利な解体工事を行ってください。

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