空き家に関する条例や法律は、一見すると複雑に絡み合っていて罰則内容が分かりにくくなっています。
ただ、空き家に関する条例と法律の関係性を知ると、意外と簡単に罰則規定は理解できます。
そこで、今回は空き家に関する条例と法律の成立背景や関係性、罰則規定について説明します。
空き家条例は空き家法が誕生するきっかけとなった
老朽化が進んだ空き家は、建物が倒壊したり屋根・外壁が剥がれ落ちたりする危険があります。
さらに、害虫の発生や不審者による放火等の可能性も考えられます。
そのため、放置空き家に対処するべく、空き家条例と空き家法ができました。
空き家条例と空き家法の成立背景
2010年(平成22年)10月1日
埼玉県所沢市が、全国初の空き家条例を施行
↓
2012年(平成24年)3月5日
秋田県大仙市が、全国初の行政代執行で空き家の撤去を実施
↓
2015年(平成27年)2月26日
空き家法が施行
日本では国民の財産権が憲法(日本国憲法 第29条)によって強く守られており、国や自治体であっても簡単に手出しができません。
そこで、各自治体は独自に空き家条例を施行しました。
倒壊の危険など、問題のある空き家を減らす目的で各自治体が定めた条例です。
所有者に対して放置空き家の管理改善を要求したうえで、必要に応じて自治体が空き家を補修・撤去できるように定めたのです。
ところが、空き家条例は、全国の自治体へ広まるとともに法的な根拠に乏しく実行力に欠ける点が課題となりました。
そのため、空き家対策の根拠となる法律として成立したのが空き家法です。
各自治体が法的な根拠をもって空き家対策を実行できるように定められた法律です。正式には、「空家等対策の推進に関する特別措置法」といいます。
現在は、空き家法をベースにして、空き家条例が作られて(作り直されて)います。
なぜ空き家条例は必要なのか?
法律は条例より強い効果があります。
加えて、法律単体でも効果を生じます。
よって、空き家条例がない自治体でも、空き家法を根拠にした空き家対策は可能です。
それでも空き家条例が必要とされるのは、空き家条例に以下2点の効果があるからです。
- 空き家法に、各自治体の考え方を反映させられる
- 自治体の行動プロセス等を明確にできる
空き家法に各自治体の考え方を反映させられる
空き家法では、全国共通で適用可能である、基本的な空き家対策を定めています。
一方で、空き家問題に関する解決の緊急性などは地域によって異なり、自治体によっては空き家法より厳しい規定を設ける必要があります。
例えば、豪雪や台風などの影響を受けやすい地域で、「緊急性がある場合、所有者に通告無しで補修工事ができる」などと定めるといった具合です。
つまり、空き家条例は、空き家法を地域の事情に合った内容に調整する効果を持っています。
自治体の行動プロセス等を明確にできる
また、空き家法は各自治体が利用しやすいように、わざと規定をあいまいにして解釈に幅をもたせている部分があります。
そのため、各自治体は、空き家条例により空き家法の範囲内で自由に空き家対策を進められます。
具体的には、「命令の可否を自治体独自の基準で明確化する」といった内容が挙げられます。
明確な基準があれば、空き家の所有者に命令する際の強い根拠となるので、空き家対策が行いやすくなります。
よって、空き家条例には、空き家対策の基準やプロセスを明確化する効果があるのです。
空き家条例と空き家法による罰則規定を知ろう
罰則規定については、各自治体による空き家条例の有無によって異なります。
自治体に空き家条例があれば空き家法と空き家条例を、空き家条例がなければ空き家法のみをチェックしてください。
- 空き家条例が存在する⇒空き家法+空き家条例
- 空き家条例が存在しない⇒空き家法
では、空き家法と空き家条例に基づく罰則規定について詳しく解説します。
空き家法がベースとなっている罰則
空き家条例は空き家法を基にして作られているため、全国の空き家条例の罰則規定は共通している部分が数多くあります。
ですから、まずは空き家法で定められた罰則から確認しましょう。
空き家法による罰則規定は、以下の通りです。
- 命令違反等で最大50万円のお金を取られる(過料)
- 固定資産税等の優遇措置から除外される
- 行政代執行により強制的に空き家を取り壊され、かかった費用を徴収される
最大50万円のお金を取られる
市町村長の命令に従わない場合等には、過料に処されます。
行政が、命令などに違反した人からお金を取ることです。
刑罰ではないので、前科は付きません。
空き家法では、立入調査を拒否した場合に最大20万円、市長などの命令に違反した場合に最大50万円の過料が定められています。
固定資産税等の優遇措置から除外
土地や建物を所有していると、固定資産税や都市計画税といった税金が課されます。
ただ、建物が建っている土地については、固定資産税等の優遇措置により課税額が低く抑えられています。
固定資産税・都市計画税の課税額を抑え、納税者の負担を減らす目的の措置です。
自治体によって多少異なりますが、一般的に「住宅用地に対する課税標準額の特例措置」といった呼び方をします。
固定資産税等は、一般的に毎年1月1日時点における固定資産の評価額を課税標準額とし、課税標準額に各税率をかけて課税額を算出します。
固定資産税=課税標準額×1.4%程度
都市計画税=課税標準額×0.3%以内
※税率は各自治体が定める
そして、建物が建っている土地の場合は、固定資産税等の優遇措置で課税標準額が圧縮されます。
■固定資産税の課税額
200m²以下の部分:課税標準額×1/6×1.4%程度
200m²超の部分:課税標準額×1/3×1.4%程度
——————————
■都市計画税の課税額
200m²以下の部分:課税標準額×1/3×0.3%以内
200m²超の部分:課税標準額×2/3×0.3%以内
しかし、空き家法による勧告を受けると固定資産税等の優遇措置から除外され、固定資産税については4倍程度にはね上がります。
課税額の急激な上昇を抑える効果がある負担調整措置は受けられますが、税金負担は年々増加するので要注意です。
行政代執行による空き家の取り壊し
自治体からの命令に従わない場合、行政代執行が行われる可能性があります。
行政が強制的に空き家等の取り壊しにかかることです。
撤去に要した費用は、空き家の所有者に請求されます。
なお、所有者不明のまま代執行を行う場合は、略式代執行と呼ばれます。
しかし、行政代執行は所有者に与える負担が大きいだけでなく、憲法が保障する財産権を侵害するおそれが否定できません。
そのため、自治体は以下の手順を踏み、行政代執行については必要最小限にとどめています。
(近隣住民の通報等)
↓
建物の立入調査
(拒否・妨害すると最大20万円の過料)
↓
助言・指導
↓
勧告
(固定資産税等の優遇措置から除外)
↓
命令
(違反すると最大50万円の過料)
↓
行政代執行
(空き家の強制撤去・費用徴収)
つまり、空き家の所有者が行政代執行を回避できるチャンスは十分にあり、行政代執行が適用されるのは相当悪質なケースに限られるといえます。
なお、空き家対策特別措置法に関する詳細は、以下の記事で紹介しています。
ぜひご覧ください。
空き家対策の法律で警告を受けたら…無視してはいけない3つの理由
各自治体が独自に設ける空き家条例の罰則
空き家条例の罰則規定は空き家法をベースとしているものの、各自治体が独自の罰則規定を設けているケースもあります。
ただ、独自といっても唯一無二ではありません。
似たような罰則規定が、いくつかの自治体で見受けられます。
以下は、各自治体の空き家条例において散見される罰則規定の例です。
- 緊急安全措置(一部補修、一部解体撤去、建物封鎖等)と費用の徴収をされる
- 強制的に竹木の伐採、草木の除去をされる
- 氏名等を公表される
緊急安全措置をとられる
空き家条例で多く見られるのが、緊急安全措置です。
空き家に倒壊の危険が差し迫っている場合などに、行政が行う措置です。
緊急性が認められ、かつ防災や安全上危ないと判断できれば、空き家法で求める手続きを経ずに、行政が空き家の補修や撤去を行えます。
緊急安全措置は、空き家法にも増して注意が必要です。
なぜなら、緊急性が認められれば、所有者への事前通知を不要とする自治体もあるからです。
例えば、京都府京都市の例が挙げられます。
措置の内容 | 落下物を防ぐ養生足場の設置、瓦の撤去等 |
---|---|
条例の要件に該当する事実 | 経年劣化により瓦の落下、躯体の倒壊があり、道路上に影響が及ぶおそれがあった |
費用 | 386,640円(税込) |
所有者への費用請求 | 条例に基づき、所有者への費用請求を実施 |
所有者の事前の同意 | 同意はとっていない(実施の要件としていない) |
所有者への事前通知 | 事前通知はしていない(実施の要件としていない) |
所有者への事後通知 | 所在地及び措置内容を、所有者あて書面にて通知 |
参考: 国土交通省
上表は、実際に緊急安全措置をとった京都市の実例です。
所有者への事前通知や同意なく措置を実施したうえ、後日かかった費用を所有者から徴収しています。
このように、緊急安全措置の対象になると、突然大きな出費が発生してしまう可能性があるので気を付けましょう。
なお、緊急安全措置の適用については、所有者の同意要否・通知のタイミング・費用の徴収規定において全国の自治体に差が見られます。
竹木の伐採、草木の除去をされる
立木竹の伐採については空き家法においても触れられています。「空家等対策の推進に関する特別措置法 第14条」しかし、行政が強制的に伐採できる旨の規定はありません。
そこで、空き家条例で竹木の伐採や草木の除草について規定する自治体が現れました。
以下は、千葉県柏市の実例です。
措置の内容 | 竹木の伐採 |
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条例の要件に該当する事実 | 空き家敷地内に繁茂している竹木の一部が隣家側に傾き、隣家住民に対し危険を及ぼしている状態であった |
費用 | 0円 |
所有者への費用請求 | 無し |
所有者の事前の同意 | 同意は得ていない |
所有者への事前通知 | 事前通知は行っていない |
所有者への事後通知 | 所在地及び措置内容を、所有者あて書面にて通知 |
参考: 国土交通省
竹木の成長を放置すると、隣家の敷地に影響を与えるケースが多々あります。
そのため、一部の自治体は空き家条例によって強制的な竹木の伐採を可能にしました。
近隣住民の生活環境を守るために必要とされた罰則規定といえます。
氏名等を公表される
空き家条例において先駆けとなった埼玉県所沢市を中心に、多くの自治体で設けられている罰則が氏名等の公表です。
自治体の勧告や命令に従わない場合に、所有者の氏名と住所・空き家の所在地・命令の内容が公表されます。
公表方法は、空き家がある敷地の門への貼り出し、インターネットによる公表等です。
特に、インターネットによる公表でも所有者の実名と現住所が公表されるので要注意です。
行政の指示に従って自主的に空き家の撤去等を行おうとする方に対し、補助制度や寄付制度による支援をしている自治体もあります。
空き家条例で罰則規定を定める一方で、補助制度や寄付制度により指示の実行をサポートしているわけです。
自治体が空き家条例を定めているか確認しよう
各自治体の空き家条例については、「全国の空き家条例をまとめたサイト」で条例の名称と罰則規定の有無が確認できます。
サイトを開くと各自治体の空き家条例一覧が見られます。
サイトでは、各自治体の空き家条例で定められている罰則規定が一覧で確認できるようになっています。
例えば、大田区では空き家条例の名称が「大田区空き家の適正管理に関する条例」で、罰則規定に「勧告・命令・氏名等公表・行政代執行」がある、といった具合です。
ただし、勧告・命令・行政代執行については、空き家条例に記載がなくとも空き家法に基づく措置は可能なので注意してください。
また、上記のサイトには、各空き家条例の細かい情報までは明記されていません。
詳しくは、各自治体の公式サイトを直接訪問し、空き家条例に関するページを調べてみましょう。
空き家条例についてのまとめ
今回は、自治体の放置空き家に対する条例を中心に、空き家法とあわせてご紹介しました。
空き家条例は自治体ごとに差が認められるとはいえ、共通した部分も多く存在します。
もし、各自治体が制定する空き家条例について確認するなら、先に空き家法をチェックしてから空き家条例を確認すると理解しやすいと思います。
空き家法については、ぜひ以下の記事を参考にしてください。
空き家対策の法律で警告を受けたら…無視してはいけない3つの理由
放置空き家に対する行政の目は、年々厳しくなっています。
ですから、放置空き家は罰則を受ける前に自主的な撤去をすべきです。
なお、解体工事を検討するなら、ぜひ当あんしん解体業者認定協会にご連絡ください。
無料サービスとして、優良な解体業者さんを複数社紹介しているため、見積書の比較により解体費用を無理なく抑えられます。